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連続ノンフィクション小説 ダムロン物語~あるチェンマイやくざの人生~ 第26話~第30話 by蘭菜太郎

ダムロン物語
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第28話:ケオ、再び逮捕される

激しい夕立と(恐らく故意にしかけられた)パンク、というひどい目に遭い、やっとチェンマイに帰りついたその日にケオがまた逮捕された。この時も、以前と同じような状況で捕まっており、やはり前と同じく実刑1年を言い渡された。何よりも恐ろしいダムロンの目がなくなり、またぞろ悪友たちとのお付き合いを始めていたようだ。

ティップが「今度から、差し入れは2人分ですよ。」と苦笑いをしながら言っている。さらにそのあと「前回は、服役中に麻薬を自由に手に入れることができたから完全な中毒になってしまったけれど、今度はダムロンがいるからそんなことはできないし、ケオはきっととんでもない目に遭うでしょうよ。」と笑いながら続けた。しかし、また警察に捕まってダムロンのところに行った時点で、きっともうボコボコにされてしまっているに違いない。ここにいた時のように飛び出して逃げられないだけに、刑務所のほうがダムロンもケオを更生させやすいかもしれない。ここで周りに面倒をかけながらただダラダラと過ごすより、よほど彼の将来のためになるのではないだろうか。
たぶん、ダムロンにしてみれば「飛んで火に入る夏の虫」であろう。自業自得とはいえども、これはケオは絶対大変な目に遭うに違いない。しかし、それはケオを更生させる最後のチャンスかもしれないのだ。そんなことをケオの奥方であるボアライに話して、「運がよいのか悪いのかわからないけれど、ともかくここはダムロンにまかせておくしかない。無論私からも話してはみるが、ダムロンは承知していると思うし、うまく行けばこれで本当にケオは更生できるかもしれないよ。」と、すっかりしょげかえっている彼女を慰める。ケオは決して悪人ではないのだが、今のままでは妻子を養うどころか普通の社会生活すらまともに営めない。ケオが何とかなるものならば、これは願ってもない機会だと思う。
本当に、何とかなるものならば……。

数日後、刑務所に入っているダムロンとケオの兄弟に、2人の奥方と一緒に面会に行った。しかし、この時ケオは具合が悪いとかで接見には出てこなかった。たぶん、ダムロンにさんざん叱られて、殴られた傷がまだ癒えていないのだろうと容易に想像できた。ダムロンは笑いながら、「いや、奴は今日は本当に具合が悪いのだ。」と言っていたが、そんなはずがあるわけがない。

ケオが3度目の刑務所へ入って2ヶ月ほどたったころ、刑務所にいるダムロンからの頼みで、ひとりの居候がダムロンの家で世話になっていた。彼はケンカで相手に障害を負わせ2年の刑期を終えて出所してきたという、精悍な顔立ちをした好青年であった。名前をパーンといい、彼もダムロンの舎弟になるならば、ダムロンの舎弟はパンとパーンいう名前ということになり、ややっこしい。このパーンは「刑務所で、ダムロンには色々と世話になった。」と言っていた。家族が離散してしまって帰る家がないという彼を、ダムロンは用心棒がわりに居候させるつもりのようだ。ダムロンがそこまで信用するだけあって、傷害罪で刑務所にいたとは思えない、優しく物静かで礼儀正しい青年であった。歳は聞かなかったが、当時多分25歳は越えていなかっただろう。
ダムロンの家へ遊びに行くと、まだ夕方にもなってないのに、ソムサックはもうすっかりできあがっている。そういえば、奥方のニンの姿が見えない。ティップに聞くと、ニンは2人目を身籠もり、身動きが楽なうちに実家に帰っているらしい。ソムサックは、このところ毎日昼間から安酒を飲んでオダをあげているという。何とも困った奴である。ところが、困ったのは酒癖だけではなかったのだ。そして、それが後に取り返しのつかない悲劇をもたらすことになる。

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