連続ノンフィクション小説 ダムロン物語~あるチェンマイやくざの人生~ 第1話~第5話 by蘭菜太郎

チェンマイのサームローダムロン物語
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これは、私が民芸品やルビー、サファイヤなどの色石を買いつけるために、チェンマイを頻繁に訪れているうちに縁あって知り合い、後に私の親友となったタイ人のダムロンとその家族の話である。
彼の波乱万丈の人生はいまだに続いており話は完結してないが、彼と知り合ってから34年の途中経過として、この話を記することにする。【蘭菜太郎】

>>>登場人物紹介

≪注≫本文中に登場する人物などは、すべて仮名です。また、写真と本文とは一切関係ありません。【ガネッシュ】

第1話:ケオとの出会い

ケオはサームローの運転手であった。彼と知り合ったのは、1985年2月のことである。

夕食に、チェンマイ・コカでタイスキをたらふく食べて帰りの足を探していると、サームローが来て私の真ん前に止まった。当時、定宿としていたホテルまでかなりの距離があるので、いつもであれば相手にしないのだが、その日はトゥクトゥクもソンテウもまったく通らず、もう10分以上も待っていたし、また2月の風がさやかな夜でもあったので、「これでもいいかな」と思い値段の交渉をすると、初めから良心的な価格であり、気分よく言い値で乗り込んだ。さわやかな気候と、くだらない無駄口を叩かない彼のおかげで、思ったよりも早くホテルに着いた。料金のほかにポケットの小銭をサービスすると、彼は恥ずかしそうにほほ笑んだ。彼の肩をポンと叩いてホテルに入り、フロントでキーを受け取る時に何気なく見ると、金をポケットに入れ、う回して戻って行く彼のサームローが見えた。普通はこれで終わり、サームローの運転手のことなど、すぐに忘れてしまうはずであった。

部屋に戻り、買いおきのコーラの栓を開け風呂の支度をしていると、突然電話が鳴った。フロントからで、「サームロー・マンが財布を届けに来ている」と言う。「エッ!」と驚き、すぐにポケットを触ってみると、確かに財布がない。あるのは別にしてあった小銭の束だけであった。飛ぶようにしてフロントへ行くと、先ほどのサームローの運転手が、真剣な顔でフロントの女性と話をしている。私の姿を見つけると、「そうだ。確かに彼だ!」と言い、二の腕をつかんで、「よかった、よかった」という。今の今まで財布を落としたことにすら気付かなかった私は、財布が戻って来たんだという実感が湧かず、ただ「よく届けてくれたね、ありがとう」と繰り返した。話を聞くと、寒くなってきたので、客席のシートの下に入れてあるジャンバーを取ろうとしたら、シートの上に財布が落ちていた。さっきの日本人だな、と中身を確認すると、えらい大金が入っているではないか。きっと困ってるに違いないと思い、すぐ届けに来たとのことであった。

この時、財布にはルビーの原石であるコランダム買いつけのため、3万バーツ以上の金が入っていた。彼の年収以上であろうから、確かに大金である。私は彼の生真面目さに感激して、3千バーツを手渡して謝礼とすると、彼は驚き、喜び、フロントの女の子やドアマンにまで、興奮した様子でもらった金を見せて歩いている。皆が「お前は正直でよい人だ」とほめたたえ、彼は顔をくしゃくしゃにして喜んだ。

そして、この時、はじめて彼の名前を聞いたのである。

翌日から、ケオは私の気のおけない友人になった。はじめのうちは、よほど不都合でない限り彼のサームローを使う程度であったが、気心が知れてくると、ほとんど一日中一緒に過ごすようになった。特に用事がない時は、午前10時から11時頃になると、ケオがサームローの仕事のための既得権を持っているというチェンイン・プラザ・ホテル(現ドゥシットD2ホテル)の溜まり場に行く。そこには、ケオの雲助仲間がいつも複数、時には10人以上もたむろしていた。ここでは、私はケオの特別なお客ということですぐに出入り黙認の身となり、名前も知らない雲助兄ちゃんと世間話をしたり、仲間うちの小博打に小銭を賭けたりした。近くに、当時としては珍しいサイフォンのコーヒーを飲ませるブラック・キャニオンという喫茶店もあり、ケオが仕事に出ている時でも暇潰しが色々とあって楽しかった。

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