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連続ノンフィクション小説 ダムロン物語~あるチェンマイやくざの人生~ 第1話~第5話 by蘭菜太郎

チェンマイのサームロー ダムロン物語
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第4話:ダムロン登場

「まあ、こちらへ来なさいよ」と招かれて、この時に初めて長兄であるダムロンの家の中に入った。

この家も、タイの水準から考えてもやはりボロ家に変わりはないが、150cmほどの高床式住宅で、天井も高く、ケオの家より大きかった。高床の下には縁台のようなものが置かれており、くつろぐためのスペースになっていた。階段は、正面入口と裏の勝手口の2ヶ所にあり、正面入口の階段を登ると、玄関に相当するスペースがあった。ケオの家のよりもかなり大きいそのスペースに、たくさんの鉢植えの植物が所狭しと並べられており、水の入ったカメも置かれていた。そこから方向転換をして3段ほど階段をあがると、家の入口になっていて、手前が居間、奥が寝室になっていた。その居間に通されると、そこに母親と長兄のダムロンがいた。

ケオ自身も含め、彼の兄弟はみんな比較的優しい顔立ちをしているのだが、この長兄だけは別で、ヤクザ者が天職というカンジでひどく人相が悪く、夜の人気(ひとけ)のない場所ではあまり会いたくないな、と思うような人であった。

最初は、その鬼瓦のような顔をした長兄ダムロンの仕事は、当然母親と同じ廃品回収業なのだろうと思っていた。しかし、外から見えるだけでも、彼の家には冷蔵庫やテレビがあり、ほかの兄弟や母親よりもかなり裕福そうである。「何の仕事をしているのか?」と聞くと、「今は何も仕事がない」という。それなのに、どうして彼と奥さんは高価そうな金製品をたくさん身に付けて、遊んで暮らしていけるのかが不思議であった。事実、いつ遊びに行っても、ダムロンはほとんどの場合家におり、身の回りのこと以外に、何か収入のための仕事を本気でしているところをまったく見ることができなかった。

ダムロンは妙な迫力のある人で、一種危ない雰囲気を持っているように私には感じられた。たとえ彼が笑っている時でも、その雰囲気は常に漂っているのに、なぜか人を引き込む包容力のような畏怖を感じてしまう、いわゆる親分肌の人なのだ。身内はむろんのこと、彼の友達や近所の人逹までもが、彼には一目も二目も置いて付き合っており、それが理解できる迫力が彼には感じられる。本物のヤクザタイプなのである。

それまでは挨拶程度の付き合いではあったが、その鼻息の荒さはすでに十分に感じていた。それが、改めて彼とはじめて差し向かいで顔を合わせたこの時、「ダムロンは、絶対まともな人ではないな」と確信し、もしかしたら、本当は殺し屋かもしれない、と考え、なぜか不安が頭の中を駆け巡りはじめて、肝を冷やした。この長兄ダムロンには子供はなく、彼と彼の奥方のティップは身内や近所の世話焼きを、生活一部のようにいつもやって、色々と面倒を見ているようだった。

この、ケオの家族の住む家のある路地には、同じようなボロ家と貧乏人が多くて、とても庶民的で、人情味あふれる近所付き合いが行われていた。彼とはじめて差し向かいで顔を合わせたこの時も、ケオの奥方が退院して来たら、友達や近所の人達を集めて、出産祝いのパーティーをする相談を母親としていたところで、友達も近所の人もたくさん来るので、ぜひ私も参加するように勧められた。

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