連続ノンフィクション小説 ダムロン物語~あるチェンマイやくざの人生~ 第21話~第25話 by蘭菜太郎

ダムロン物語
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これは、私が民芸品やルビー、サファイヤなどの色石を買いつけるために、チェンマイを頻繁に訪れているうちに縁あって知り合い、後に私の親友となったタイ人のダムロンとその家族の話である。
彼の波乱万丈の人生はいまだに続いており話は完結してないが、彼と知り合ってから34年の途中経過として、この話を記することにする。【蘭菜太郎】

>>>登場人物紹介

≪注≫本文中に登場する人物などは、すべて仮名です。また、写真と本文とは一切関係ありません。【ガネッシュ】

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第21話:チェンマイ刑務所(1)

翌朝10時に約束通りダムロンの家へ行くと、すでにティップが色々な差し入れを用意していた。
大半は食料品で、刑務所の貧しい食事に添えるためのおかずのようなものが特に多かった。ウインストン(タバコ)を1カートン……。ダムロンは、娑婆にいた時からかなりの愛煙家で、毎日40本くらいは吸っていた。そのほかにも、着替え、歯ブラシやタオル、胃薬にタイガーバーム(塗り薬)など細々としたものを、大きなビニール袋に詰め込んでいる。そこにパンがやって来て、ティップに挨拶した後、私に「これをダムロンに持って行ってくれ」と言って、釣りに競馬、さらにはムエタイ(キックボクシング)とスヌーカーの専門誌を手渡してきた。「パンも一緒に行かないか?」と言うと、「今日は、夕方に弁護士の接見があるので、そっちに同行しようと思う。何か進展があれば、その時にわかるよ。」と、まるで一緒に行っても意味がないような口振りである。私は、「あれだけの量の差し入れを3日とあけずに渡せるくらい自由な刑務所なのに、直接ダムロンに会うことはできないものなのだろうか」と考え、自分も夕方一緒に行った方がいいかなあ、とも思ったのだが、もう出発準備も整ってティップもその気になっているので、とにもかくにも一度ダムロンに会いに行ってみることにする。
それに、私が弁護士に会ったところで、ジャマになるだけでどうなるものでもないだろう。

ティップが、家の外に置いてある主のいなくなったトゥクトゥクに、差し入れの入ったビニール袋を積み込んでいる。誰が運転するのかなあ、と様子を見ていると、しばらくしてソムサックがノソノソとやって来た。殊勝ににうつむいているところからすると、とりあえず今は酒は入っていないようだ。「何だ。ソムサックが運転してくれるのか?」と聞くと、「運転してもいいか?」とか言っている。「いいかも何も、タイヤの数が奇数の車なんか私にはとても運転できないのだから、ぜひ頼むよ。ダムロンがいなくなったので、このトゥクトゥクはソムサックが使っているんじゃないのか?」と聞くと、チラリとティップの方を見て、「ダムロンがダメだと言うんだ」とつぶやいて、肩を落としている。ダムロンは刑務所にいるのだから、ソムサックの近況は当然ティップなどから聞いているのだろう。
その報告内容があまりよくないから、ダムロンはソムサックにトゥクトゥク使用の許可を出していないのだ。

ソムサックの運転するトゥクトゥクで、お堀の内側のほぼ中心部にある警察署まで行く。
刑務所は、この警察署のすぐ近くにあった。刑務所の入口の向かい側にある事務所に行き、接見の手続きをするための用紙をもらう。はっきりとはわからなかったが、もしかしたらこの用紙は買うのかもしれない。ここには差し入れのための日用雑貨や食事のおかず、果子などを売っている店が入っており、ティップはさらにここでタバコや袋詰めのスナック菓子などを買い足している。タバコはタイ製の安物で、そんなものをダムロンが吸っているのを見たことがないし、菓子に至っては論外である。「そんなものを買ってどうするんだい?」とティップにたずねると、「ダムロンが、友達にあげるのです。」と言っている。
ティップのこの一言で私にはすべてが理解できた。ダムロンは、刑務所の中でも娑婆と同様に、すでに兄貴分を気取っているに違いない。あれは、ダムロンが舎弟達に分けてやる分なのだ……。
ダムロンが、刑務所の中ですら相変わらずダムロンらしくしていることがわかり、何だかとても安心した。やはり、ダムロンは刑務所に入れられたくらいでガタつくような人ではないのだ。

刑務所の入口は、大型トラックも通れるくらい大きくて、武骨な鉄製の両開きの門によって閉ざされていた。その門の右下部に内側からしか開閉できない通用門があり、係官がのぞき窓からいちいち確認しながら開け閉めして、人を通している。我々も、そこから刑務所の中へと入っていった。通用門をくぐると、そこはすぐに接見者のための待合室になっており、10人以上は座れそうな木製の長椅子が10列ほど並べてある。すでに、そこにはもう30人以上が座っていた。全体に薄暗く、わずかに鉄錆と汚物の匂いがした。一角には、やはり差し入れを売っている小さな店があったが、小汚いし、薄暗くて商品がよく見えない。
「この店には、売上のノルマなんかないんだろうなあ……」などとつまらぬことを考えていると、ソムサックがやって来て「あっちの椅子へ腰かけて待っていよう。」と言う。ティップは、接見の申込用紙の提出と、差し入れの届出に行っており、まだ戻って来ていない。あんな辛気臭い場所で、ソムサックと並んで座っていても気が滅入るだけなので、「後で行くから。」と言って、そのあたりを見物して回ることにする。刑務所のに内部にも、外と同じくらい巨大な鉄格子の門があり、付属の通用口をまた同じように所員が警護していた。
「これが、本物の刑務所の鉄格子なんだなあ」と、変に感心しながら見ていると、その門のところにいた係官が薄笑いを浮かべながら、「お前は日本人か?」と聞いてきた。「ご推察の通り、私は日本人です。あなたは警官なのですか、それとも刑務所の職員なのですか?」と聞き返してみると、肩についたバッジをたたきながら、「警官ではない。」と言う。確かに、その肩章は警察官のものとはどこか少し違うように見えた。さらに「ここには、何人くらいの囚人がいるのか?」と聞くと、「現在、囚人が500人くらい。それに加えて、職員が80人から100人いるんだ。」と、即答が返ってきた。

係官と、そんなどうでもよいことを話していると、ティップが戻って来たので、待合室の長椅子に座って待つことにする。中ほどのスペースが空いてるところに、ソムサックが一人ポツンと座っていたので、そのそばに3人並んで座る。
そこには、接見を待つさまざまな人たちがいた。顔を近づけヒソヒソと話をしている、母と娘らしい女性2人。ふて腐れたように腕を組み、どこともなく上空の方を見ながら、じっと考えごとにふけっているらしいお兄さん。やたらにケバイ服装と化粧をしたお姉さん。かと思うと、赤ん坊に哺乳瓶を含ませている女の人もいる。
気のせいか、みな一様に暗い目をしており、重たい空気が漂っていた。「ここが、ワッと楽しい雰囲気になることはあるのだろうか?」などとまたつまらぬことを考えていると、何だか周囲がザワつき始めた。みんなが気にしている後ろの方を見やると、例の鉄製の門の通用口をくぐって、分厚い書類の束を持った恰幅のよい偉そうな官憲が入って来た。颯爽と歩いて待合室の前方に置いてある木机のところに立つと、壁にかけてあるマイクを手に取り、コンコンと指でマイクを叩いて調子を確かめてから、書類をめくり次々と名前を呼び始めた。

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