連続ノンフィクション小説 ダムロン物語~あるチェンマイやくざの人生~ 第16話~第20話 by蘭菜太郎

ダムロン物語
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これは、私が民芸品やルビー、サファイヤなどの色石を買いつけるために、チェンマイを頻繁に訪れているうちに縁あって知り合い、後に私の親友となったタイ人のダムロンとその家族の話である。
彼の波乱万丈の人生はいまだに続いており話は完結してないが、彼と知り合ってから34年の途中経過として、この話を記することにする。【蘭菜太郎】

>>>登場人物紹介

≪注≫本文中に登場する人物などは、すべて仮名です。また、写真と本文とは一切関係ありません。【ガネッシュ】

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第16話:ダムロンがヤクザになるまで(3)

クルンテープ(バンコク)との縁が切れ、チェンマイの生活が始まって一番喜んだのはティップである。

実は、ティップは15歳の時に親によって身売りされ、ダムロンと知り合う前に娘を産んでいる。しかしその子は運悪く娘であったため、ティップの意思とは関係なく産休の代償としてオーナーに取られてしまった。今ではどこでどうしているのかもわからなくなってしまったと聞いている。ティップにとってのクルンテープ(バンコク)は、ダムロンと知り合ったこと以外には惨めな思い出だけしかなかったのだ。彼女は、チェンマイではじめて普通の主婦の生活を知ったのである。
自分という娘を売らなければならなかった実家の家庭の事情は無論わかってはいるものの、「自分は親に売られたんだ」という事実はやはり拭い難いものらしく、両親がいるファーンの実家との付き合いは、今も時たまの帰郷とわずかな生活援助程度にとどめている。

ティップは、その愛と気遣いのすべてをダムロンとその家族に注いだ。彼女は普段たいへん勝ち気な姉さんの役をこなしているが、ダムロンを全面的に信頼しており、彼に逆らうことは絶対にしない。ダムロンには服従の態度を崩さない人なのである。
ところで、2人の間には子供ができなかった。ダムロンはそのことについてはいつも言葉を濁すが、どうやらダムロンの方にその原因があるとわかっているらしい。相撲取りやレスラー、ボクサーなど格闘技を職業にしていた人達の中には、肉体的なダメージを受けた後遺症なのか、子供ができなくなる人が多いと聞くが、彼もそのクチなのだろうか。

「今のダムロンからは想像もできないけれど、チェンマイに戻ってから本当にサームローの運ちゃんを5年もやっていたのかい?たとえ毎日マジメにやっても、ダムロンの飲み代にもならないと思うけど。」と聞くと、「そんなことはない。サームローの仕事だけで家族を養っている奴も大勢いる。ただ、やり方の問題だ。」と言う。
「無論、いくらフリーで街を流していても、大した稼ぎにはならない。それこそ飲み代と飯代で終わってしまう程度だ。だから、普通は荷物運搬や子供の通学の送り迎えなどの仕事を契約して定期的にこなし、それ以外の時間は中継場で割の良い客を待つ。ホテルの客や観光客の案内や紹介で、コミッションが入れば最高さ。」と言う通り、実際にダムロンが毎日のようにサームローを流していたのははじめの1~2カ月だけで、実入りのある当時では一番客質がよかったチェンインホテル(現ドゥシットD2ホテル)の中継場の待ち権利をすぐに得たようだ。これも、今のダムロンの風格から想像しても当然だと思う。事実、街なかでサームローやトゥクトゥクを拾ってダムロンの家まで来ると、それらの運転手の半分近くがダムロンのことや住まいを知っていた。今でも、ダムロンは雲助連中の顔役なのだ。
ケオやソムサックが新米でも何とか仕事になったのは、ひとえにダムロンの顔がものを言っているのだ。ダムロンとまともに喧嘩して勝てると思う者はまずいないだろうし、そんな暴力的なもの以前に、風格というか怖さというか、そういうものが普通の雲助などとは比べものにならない。ダムロンは、本当に犬でも怖がる雰囲気を持っているのだ。
ソムサックにトゥクトゥクをまかせてから、何のかんのとは言っても気がかりであるらしく、たまに様子を見にチェンインホテル(現ドゥシットD2ホテル)の中継場に寄るようになったが、そんな時は雲助連中はもちろん、ホテルの従業員までかなりの人がダムロンを知っており、挨拶をしていた。ダムロンはそうした人々に鷹揚に応え、何人かの古株と短い話をするだけで長居をすることはなかったが、そんな時にはダムロンの姿を見ただけで慌てて逃げ出す輩が複数いて、仲間の失笑を買っていた。そういう奴らは、きっと以前にダムロンの怖さを身を持って体験したんじゃないかと思う。本当に、生涯忘れることのできないほどの怖さを……。

そういう私とて、仕事柄色々な人に会い色々なことを見てきて、滅多なことでは驚かなくなったと思っていたが、それがはじめて彼を目の前で見た時には、「この人は、多分殺し屋か何かじゃないか。絶対にまともな人ではない」と感じ、なぜか「これは、このまま無事には帰れないかもしれない」と、肝を冷やした。事実、ダムロンはまともな人ではないのだが、そのまともじゃないものがオーラのように滲み出ているのだ。たまたまケオを通して彼の内側で知り合ったので友達になれたが、私のような外国人が彼と親しくなるようなことは普通では有り得ないことだと思う。普通なら、君子危うしに近寄らずで絶対避けるのではないだろうか。

ある時、こんなできごとがあった。
ホテルの前で丁度流してきたサームローに乗り、ダムロンの家のあるサンパコーイに向かう。その間中、サームローのおじさんは盛んに観光やナイトライフの案内をさせてくれ、としつこく言い続けていた。ダムロンの家の近くまで来ると、そこは私のような日本人が来るのには似つかわしくない場所と感じたのか「友達の家へ行くのか?」と聞いてくる。「ダムロンの家だよ。」と私が言うと、おじさんは驚いた。すぐに完全にサームローを止めて振り返り、「ダムロンというのは、あのダムロンのことか?」と、身振りで入れ墨を示している。「そうだよ、友達なんだ。」と言うと、おじさんは一度あたりを見回し、確かにダムロンの家に向かっていることがわかると、「ちょっと待ってくれ。」と言う。「あんたがダムロンの友達とは知らなかったんだ。だから、さっき誘った案内の話はなかったことにしてくれ。」と言うのだ。別に何の約束をした訳でもないし、まったく聞き流していただけなのだが、おじさんの方はえらく気にしている。要するに、ダムロンの客を取ったとトラブルになるのを恐れているのだ。「わかったわかった。だから早く行ってくれ。」と催促すると、ゆっくりと進み出しながらなおも確認してくる。「絶対にダムロンに言わないでくれ。彼とボクシングをするのはゴメンだ。」とか言ってる。ダムロンの家に着くとちょうど彼がそこにいて、ケオの次男のダナイを抱いてあやしていた。ダムロンはおじさんを知っているらしく、ジロリとおじさんをひと睨みし、「デンよ、あまり酒を飲み過ぎるなよ。」と声をかけている。おじさんは慌てた様子でうなずいて、確認するように私に素早く目配せし、肩をすぼめて早々に走り去って行った。

このように、雲助の中にはダムロンを恐れて彼に近寄らないのもかなりいるのだ。

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