連続ノンフィクション小説 ダムロン物語~あるチェンマイやくざの人生~ 第41話~ by蘭菜太郎

ダムロン物語
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これは、私が民芸品やルビー、サファイヤなどの色石を買いつけるために、チェンマイを頻繁に訪れているうちに縁あって知り合い、後に私の親友となったタイ人のダムロンとその家族の話である。
彼の波乱万丈の人生はいまだに続いており話は完結してないが、彼と知り合ってから34年の途中経過として、この話を記することにする。【蘭菜太郎】

>>>登場人物紹介

≪注≫本文中に登場する人物などは、すべて仮名です。また、写真と本文とは一切関係ありません。【ガネッシュ】

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第41話:ダムロンが抱える爆弾の発覚(3)

仕掛けてからわずか1時間ほどで大物がかり、ダムロンとウイラットは色めき立った。

早速に大物がかかったというのは偶然かもしれないが、ケミカルライトを魚が嫌うことはないとわかったので、早速自分達の仕掛けにもつけてみたいと言い出した。ウキが見えるので、魚が寄り付いて吸い込み針にかかるまでのプロセスがわかり、すごく感動したのだ。
私が持って来たケミカルライトを全部出すと残りが4本あり、ちょうど全部に仕掛けられる。仕掛けてからまだ2時間もたっていないが、ついでに全部の仕掛けの練り餌をつけ替えて、それぞれのウキにケミカルライトを取り付けてポーンがそれを持って泳いで沖に行き、戻って来たのは9時頃であった。100mほど先の水面に、今度は5つの明かりがほぼ等間隔に並ぶことになった。周りの釣り師が「お~いダムロンよ、祭りが盛んになって来たぞ」と大声で冷やかして来る。ダムロンは「ああ、何しろローイクラトン(灯篭流し)だからな。盛大にやるんだ」とやり返す。常に釣竿のそばにいて、ひっきりなしにハンドライトで目印を確認しなくてもウキが見えているので、これは楽である。皆が焚き火の周りに集まって、中断した夕食をつまみながらワイワイと魚がかかるのを待つことになった。

「ところでよ、お前が始めるという仕事のことなんだけどよ。何でまた急にそんなことを始める気になったんだ?いくら金がかかるかわかっているのか?」とウイラットが言い出した。「前にも言ったように、ダムロンの許しを受けてティップがやるんだよ。別に私がやるわけではない。急に決めたわけでもなくて、ティップには前回来た時に話をしたし、田中さんと話し合って出資を決めたのはかなり前なんだ。さらに、ダムロンと何かの商売をやりたいと思ったのは実はもう2年以上も前のことなんだ。でも、ダムロンが刑務所に入ってしまいできなかっただけだよ。金のほうもいくらくらいかかるか、だいたいのところはわかっているよ。むろん自分もいくらかは使うけど、ダムロンはポケットマネーを出してポーンの仕事場を作ってやったんだろ?ポーンはとてもありがたかったと思うんだ。それと同じとは言わずとも、似たようなものさ。田中さんと2人で折半で、遊びのためのコミューンを作ろうと決めたんだ。儲けるための出資ではなくて、自分達の遊び場を作るための出資だよ。だから、そんなに深刻になることもないけど、少しは実入りがないと実際に商売するティップが長続きしないので困るだけだよ。」と、私は田中氏との共同出資のいきさつを説明する。
するとダムロンが、「賭けごとだって、仕事でやれば遊びじゃないんだよな」とか言っている。「何を言ってるんだ。賭けごとはいくら一生懸命やろうとしょせん遊びなんだよ。商売も博打のようなものだけど、遊びではないと言ったんだよ」と私が言うと、「そうか、仕事で博打をすれば商売になるのか」とわけのわからないことを言ってる。

ソレハナニカチガウゾ~!!

頭をかかえてしまった私に、ウイラットが「何だ、お前は博打で遊ぶために商売を始めるのか?」と、さらにわけのわからないことを言って来る。

ゼンゼンハナシガチガウヨ~!!

ガヤガヤと、わかったようなわからないような話をしているうちに時間がたち、2時間ほどたった11時頃、今度はダムロンの釣竿につながる真ん中のウキの明かりが明滅している。「これは来たぞ!」とダムロンと釣竿のところに駆けつけると、目印の練り餌ははまだ動いていない。しかし、ウキの明かりは明滅を繰り返している。これはもしかしたら小魚でもかかったかな、とも思ったのだが、もし大物が寄りついているためのアタリだともったいないので、しばらく様子を見ることにした。
ダムロンと2人で竿の前にウンチ座りをしてしばらく待っていると、何と今まで注視していたウキの左隣のウキの光が突然消えた。少しの間の後、左隣りの釣竿の竿先が、いきなりググッと引かれるように動いたのが、没っしかけた月明りにハッキリ見えた。この釣竿もまたダムロンの責任下の釣竿である。フリー状態になっているリールから、ジャジャジャ~ッと糸が出て行く音がしている。

ダムロンが大あわてで釣竿を手に取りリールをロックすると、カラ合わせをするまでもなく、すぐに引っ張りっこが始まってしまった。それでもダムロンは引き合いをしながらも、懸命にカラ合わせのアクションを加えていた。これもかなりの大物らしく、最初にかなり沖まで行かせてしまったこともあって、ダムロンは手こずっていた。右に逃れようとする魚を抑えきれず、例の明滅していたウキの仕掛けを巻き込みそうになった。後ろで見ていたポーンが右側の釣竿を持ち、素早くリールを巻いて仕掛けがからまらないように動かしていた。普通ならもう魚は疲れ始め、沖ではなく深みに逃れようとするのだが、やたら元気な魚らしくまだ突っ走っている。ダムロンが少しずつリールを巻いて寄せるが、いくらも寄らないうちにまた走り始め、ジャジャ~ッと糸が出て行く。かなりの時間をかけてやっとすぐそこまで寄ったかと思うと、また暴れて深みに逃げようと抵抗していた。
ダムロンが30分もかけて釣りあげたこのやたらと元気な魚君は、巨大なノーンチャンであった。イソックと呼ばれる紅魚と同じく、このノーンチャンも鯉の仲間なんだろうが、引きの強いことで知られる獲物である。しかも、こいつは80cm・8kgもあったのだ。
さすがのダムロンも疲れ果てたのか、ポーンが獲物を大きな玉網で取り込んだ途端に、釣竿を放り投げて座り込んでしまった。かわるがわる左右の二の腕を揉みながら、ハアハア肩で息を吐いている。しばらく動かないのでよく見ると、顔にビッシリと汗をかき右手を胸のあたりにあてて顔をしかめて苦しそうにしていて、ハアハアと荒い息づかいが止まらない。大物を釣って疲れただけではなく、本当に具合が悪くなってしまったようだ。
1分ほどたってから苦痛の表情が治まり、今度は当惑の表情のようになり、そしてすぐに苦笑した。私が「どこか具合が悪いのか?」と聞くと、イヤ、もう大丈夫だと言って立上がる。獲物から針が外され、玉編みの中で暴れる巨大なノンチャンを、ワイワイと見てる皆の方に歩いて行った。私はダムロンの具合がとても気になり、暫くは様子を見ていたが、その後はもう具合の悪そうな様子は見られず、いつものタフなダムロンに戻っていた。
「いや~、もう大きいのを釣りすぎちゃって、本当に具合が悪くなっちゃったよ。お前のように疲れてなくて元気な奴がうらやましいぜ。」とか言って、まだボウズのウイラットをからかっている。ウイラットが「フン、隣の竿に来た時のあの慌てようっっていったらなかったぜ。大騒ぎをするもんだから、こっちは釣れなくて迷惑してるんだ」とか言い返している。その日の夜釣りはそれが最後の大物となり、2度の餌替えをしたがアタリはなく、ついに夜が明けてしまった。
明け方からは小物釣りをティップやパンとで楽しみ、ダムロンの具合のことも忘れてしまった。
「そろそろ終わりにしよう」と声がかかり、私が手や顔を洗いに水際に行って、持って来たホテルの石鹸で洗い始めると、ダムロンとパンがやって来て石鹸を貸してくれと言う。3人でジャバジャバ仲よく顔を洗っていると、いきなり「ドン!!」と来た。私の左前4~5mのところの水面がパッと弾ける。あわてて後ろを振り返ると、ウイラットがピストルを構えてほくそ笑んでいる。
このお巡りさんは自分に大物が釣れなかったので面白くないらしく、またぞろ拳銃をぶっ放しているのだ。まったく危ないったらありゃしない……。「おいおい、空に向けて撃っても危ないのに、人のいる方を狙うなんてとんでもない、何てことをするんだ!!」との私の抗議をせせら笑いながら聞いている。ダムロンが「全然当たらないじゃないか、ここを狙え」と言って、私の心臓を指差してる。まったく、どいつもこいつもバカやってんじゃないよ。本当にもう危ないだろう~!!

サンパコーイに帰り着いてからも、釣った鱒で腹ごしらえをしたりしてダムロンの具合のことは気にかけなかったのだが、あの時の苦痛の表情はダムロンが最初に見せた心臓発作の症状であったことが、少し後で分かるのである。

ダムロンは爆弾を抱えていたのだ……。

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