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連続ノンフィクション小説 ダムロン物語~あるチェンマイやくざの人生~ 第41話~ by蘭菜太郎

ダムロン物語
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第42話:ティップの店を造る(1)

翌日、昼過ぎからダムロンの家に行くと、ダムロンはいつものように釣りの仕掛け作りをしていた。ブンがそれをそばで見ている。ダムロンが手を休めて、「来るのを待っていたんだ。出店のための心当たりがあるので、これから早速に見に行こう」と言った。
「そうそう、善は急げだよ。そういうことなら是も非もない、早速見に行こう」と私が言うと、遊びに来ていたブンが、「ダムロンが言うには何事も見て、触って、なめ回さなければ、良いか悪いか分からないんだってな」とか、妙な手つきをしながら言って笑っている。「たぶんその通りだけれど、ブンが言うと何かイヤらしく聞こえるな。断っておくけど、普通のまともな商売をするつもりであって、おかしな仕事をする気はないんだからな。ブンがそんなに大喜びするほどの商売じゃないけど、遊びに行けば友達がいて、安心できるところにしたい。それにはまず、まともな仕事であることは当然で、来た友達を気楽に歓待できる程度に暇があって、かつ儲かる商売をしなくちゃならない。そのくらいはブンにも分かるだろう」と私が言う。ブンはフンフンとうなずいてる。本当にわかっているのかな……。

私はこの時、このようにダムロンが本当にまともな仕事のために、自主的に現実的な行動を起こしたのは、これが人生で初めてのことではないだろうかと思い、それがとてもうれしかった。
これまでダムロンは、自分には正業など絶対に無理だともう完全に決めつけていて、女房にまともな商売をさせようなどという発想は、今までまったく考えたこともなかったのだ。安心は裕福に勝る幸せなんだ、と説いたところで、すさまじい阿修羅のような世界でしのぎを削ってこれまで生きて来たダムロンに、そんな言葉は念仏と同じであろう。そんなダムロンがまともな仕事のために本気で動いたという、普通なら当然のことがうれしかったのだ。

ダムロンの言う心当たりの最初の場所は、サンパコーイからピン川をはさんだ反対側にあるワローロット市場であった。実際にすでに貸店舗になっている空き店があり、それはいくつかある市場の中の通り道でも、特に人通りの多い通りへの出入口の角地にあたるよい場所であるがいかにも手狭だし、こんな場所だとさぞかし家賃も高いことだろうと思えた。「いくら何でもこれでは狭すぎるし、場所がよすぎて我々の考えている商売程度で利益を上げるのは大変だと思う。こういう場所は引っ切りなしに客が来る。薄利多売の商売には向いているけど、そんな商売をするとものすごく忙しくて大変なのでやめようぜ」と言い、次の場所を見ることにした。
そして行ったのは、街の中心近くの路地に面した、上がアパートになっている新築の建物の角に位置した店だった。上のアパートも借りられるとのことだったが、合わせれば当然家賃はかなりの額になることだろう。
「なあ、ダムロンよ。ダムロンが釣った魚でティップがバナナの葉焼きを作り、それを売ってこづかいを稼ごうと言ってるんだ。その程度ならティップにも出来ると思うんだ。でも、その程度の商売ではここの家賃を稼ぐことはむずかしいと思うよ。さっきの市場の店では小さ過ぎるし、ここは大き過ぎる。ともあれ、もっと沢山の物件を見てみたいな」と私は言った。
その後もいくつつかの貸し店を見てみたが、いずれも帯に短したすきに長し、「これだ!」という物件はなかなか見つからなくて、これはある程度は妥協が必要なのか、とも思い始めていた。

その翌々日のことだったか、私はネパールで田中氏が言っていた提案を突然思い出した。それは一番簡単で長続きしそうな方法として提案されたもので、ダムロンの家の敷地内にティップの小店を建ててしまうと言うものであった。しかし、いかに小店でも建物を建てるとなるとかなりの資金が必要と思われ、二の足を踏んだのだ。これをダムロンに話すと、一瞬驚いた様な顔をしてから、「それはよい考えだけれども、やはり金がかかるぞ」と言う。ダムロンも具体的にはどの位の金がかかるかはわからず、それでもまあちょっと聞いてみようかとなった。場所的にはサンパコーイの路地裏だが、自宅であればこれ以上行き来に便利な所はない。この辺に住んでいる貧乏人相手であり、当然大した商売にはならないだろうが、田中氏の言う通り長続きはしそうだ。
ダムロンと2人で筋向かいに住んでいる、大工のヌックの家に行って話を聞いて見る。すると意外にも、床天井のない、平屋の雑貨店程度を作るならば、たいした金額ではなく、チョットした店を借りる際の保証金程度で、建物は建ってしまうのであった。あとは内装と備品であるが、これは店を始める以上は必ずかかるもので、結局は店を借りて開くのと、必要資金には大して変わりないことがわかった。ロケーションの問題以外はすべてが理想的である。この田中氏の提案にティップは驚き、そして大賛成し、これですべてが決定した。

善は急げで早速ヌックをダムロンの家に呼んで、具体的な店の造りと目算の見積もりを聞いて見る。店の場所はダムロンの家の建物と道路までの間で、間口が5mの奥行きが7~8m。床はセメントの打ち放しで十分。屋根は平屋根で、屋根材は石膏材が丈夫で値も安いと言う。この屋根は高床式住居のダムロンの家から直接出入りできるように、奥を高くしてダムロンの家とつなげるとのこと。だいたいは鉄骨プレハブに近い造りになるようだ。「それで、内装はどのようにするんだい?」と聞くと、何とダムロンもティップも、「そんなものはいらない」と言うのであった。「壁のほとんどはおそらく商品で埋まるだろう。おかしければ後で何か考えるさ」と言う。これで、店の工費はさらに格安となった。あとは、ショーケースや飾り棚を揃える程度で、精々値の張るものは冷蔵式のショーケースくらいである。
考えあぐねていた目的の店が、あまりに安く簡単に出来てしまう事実を理解すると、逆に不安が頭を出して、「本当にこんな路地裏で何か商売が出来るのかな」と、考えてしまう。でも、出費は商品の仕入れ代だけで、光熱費以外の家賃がタダというのは何ともすばらしい。固定費がほとんどないので、商いが少なければ仕入れを少なくして、出費を臨機応変で抑えられ、資金繰りの行き詰りを防げる。その日はとにかくダムロンの家の前に、建て増しする形で店を作ることにその場で決定し、これをヌックに頼むこととなった。

ウーン、しかしどんな店が出来るものやら。

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