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連続ノンフィクション小説 ダムロン物語~あるチェンマイやくざの人生~ 第26話~第30話 by蘭菜太郎

ダムロン物語
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第29話:悲劇をもたらすもの

その取り返しのつかない悲劇は、ひとりの少女と少女を食い物にしていた老女がもたらした。

ダムロンの家の裏には、今は流れていない幅1mほどのドブ川があり、これが隣家の敷地との境界線になっている。向こう側にも当然地主はいるのだろうが、そこは人も入れぬくらい草木が生い茂り、ジャングルのような状態であった。その、普通は人が近づかないような場所に掘っ立て小屋のようなものを作って住み始めた母娘がいた。「母娘」とは言っても、60過ぎの老女と15歳ほどの少女で、明らかに本当の親子ではないとわかる、実に怪しい2人組であった。2人はそこに住み着き、どうも少女が春をひさいでいたらしい。私が見かける時には、いつも老女が少女のそばにつかず離れずいたが、少女を監視するような老女の目つきは、まったく身内を見ているものではなく、その老女が少女を商品として扱い、客を取らせているのであろうことがすぐにでも想像できるような目つきであった。
少女は、まだ子供といってもいいような体つきで、身長は150cmにも満たなかったであろう。痩せていて色は黒いが、かわいらしい顔立ちをしていた。この少女の保護者というのか持ち主というのか、老女のほうも少女と同じくらい貧弱な体格だが、こちらは醜悪そのものであった。
当初、私はこの少女の面倒をソムサックが見ているのかと思っていた。むろん不純な下心があって……。それを、その保護者然としている醜悪な老女が何かの余録で黙認しているものだと思い、よく事情もわからないまま「あまり罪なことをするなよ。」と、ソムサックに釘を刺したことがあった。ソムサックは苦笑いをするだけで何も言わなかったが、事実はそうではなかったのである。

しばらくすると、この怪しい2人組は近所の評判が急に悪くなりだし、3か月ほどで石もて追われ、姿が見えなくなってしまった。

その後しばらくしてから、ティップが「近所の顔見知りの奥さんが、夜突然泣きながらウチに来て、「あの小娘はどこに行った?」と聞いてくるの。何でそんなことをたずねるのか訳を聞くと、「うちの裏に住みついてる女の子が、このあたりの男を相手に商売してるんだ。しかもこれが何と商売繁盛で、この近所では夫婦ゲンカが大流行している。」と言うのよ。どうも少し前から、酔っ払いがあの家に出入りしているので「おかしいな」とは思っていたのだけれども、まさかそういうこととは気がつかなくて、驚いてしまったわ。それで、裏の堀っ建て小屋を見に行ってみたのだけれど誰もいないし、しかたなく「2人組がいつもいる昼頃にもう一度話しましょう。」と言って、とりあえずその夜は家に帰したのだけれど、翌日ほかの奥さんたちを5~6人引き連れてやって来て、「すぐにここを出て行かないと、警察を呼ぶ!!」、と大騒ぎして、その場で荷物をまとめさせて老婆と少女を追い出して、小屋を壊してしまったの。みんな、えらく殺気立っていてね、すごかったのよ。彼女達には少しかわいそうだったけれど、まあしかたないでしょうね。」と笑いながら、その時の様子を語ってくれた。しかし、事態は実に笑いごとではなかったのだが、89年の暮れにはもう2人組はすでにそこにはいなくなっていた。
しかし当然といえば当然、その2人組はどこかに場所を変えて同じような商売をしている。という噂をたまに耳にしたが、少なくとも姿を見かけることはもうなかった。喉もと過ぎれば……、という奴で、時とともに噂も消え、みんなこの2人組のことなど忘れてしまった。

ところが数年後、いやでもこの少女と老女のことを思い出さずにはいられない事態が、ダムロン一家のみならず、この平和なサンパコーイの住宅街を襲うことになるとは、この時誰も想像もしなかったのである。

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