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連続ノンフィクション小説 ダムロン物語~あるチェンマイやくざの人生~ 第36話~第40話 by蘭菜太郎

ダムロン物語
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第40話:ダムロンが抱える爆弾の発覚(2)

釣竿はウィラットが2本、ダムロンが私のためのものと自分用を合わせて3本の勝負である。
以前と同じく、ポーンがタイヤのチューブを膨らませている。私はこの日のために用意をしてきた秘密兵器を出した。それは、当時の日本ではかなり一般的になってきた、夜釣りの集魚用使い捨てケミカルライトである。50m用であるが、山中の何の明かりもないところなら100m以上あってもたぶん見えるだろうし、最低でも集魚効果があるだろうと踏んで日本で買って持って来たのである。最近ではタイでも釣具店で普通に売られるようになったが、当時はまだほとんど目にすることがなかった代物である。

「これを試してみたい」と言って、発泡スチロール製の手作りのウキの上の部分にねじ込む。「余分なものをつけると、いざという時に糸がからまって困ることになるぞ。本当にだいじょうぶなのか?」などとダムロンが言っているのを無視し、取りつけたケミカルライトを折って発光させるが、日が落ちてもまだ十分明るいので発光はほとんど目立たない。「こいつをいつも通りに落としてきてくれ」と言って仕掛けをポーンに渡す。ウィラットも横目で見ながら、「また妙なことをやってるな」とか言っている。
ポーンが仕掛けを持って、水を掻きわけながらゆっくりとポイントまで泳いで行く。ダムロンが右だ左だもっと向こうだと、ものすごく大きな声で指示を出している。とても人の声量とは思えない、まるで虎が吠えるようである。仕掛けを落とし終えてポーンが戻って来たころにはもうかなり暗くなって、ケミカルライトが発光しているのがハッキリと見えてきた。ダムロンが一服しながら、「何だ、まるでローイクラトン(灯篭流し)みたいじゃないか。あれじゃあ魚に仕掛けがわかってしまうぞ」と言う。「いや、逆に集魚効果があるんだ。ここの魚にも効果があるかどうかを試すのさ。そんなに特別なものではなくて、日本ではどこの釣具店でも売っている普通のものだよ」と私が言うと、ダムロンは「まあ少なくとも浮きが見えるから楽しいわな」とか言っている。パンが焚き火を始めて、ティップが夕食の用意をしている。何でも、さっき釣った小魚でトムヤムスープを作るのだと言う。しばらくして完全に暗くなるころには、それらしいレモングラスの香りが周囲に漂ってきた。

今や、ウキに付けたケミカルライトはこうこうと発光し、水面に青白い光を放っている。その夜はよく晴れていて天中に上弦の月が出ていたので、手元足元は十分見えるくらいに明るいが、ケミカルライトはそれにも負けずに輝いていた。少し離れたところにいる釣り師が、「お~いダムロンよ、祭りでも始まるのか」と大声で冷やかして来る。ダムロンが「そうだ。ローイクラトンだよ、ローイクラトン。ここへ来て一緒に呑もうぜ」とか大声で言い返している。
パンがやって来て食事にしようと言うので、皆待ってましたと焚き火の周りに集まる。ポーンを加えて都合6人でワイワイと食べ始める。ガイヤーンと牛タンに豚の耳の焼き物、それにトムヤムスープ。夜釣りの食事としてはぜいたくすぎるメニューである。酒に酔うと当然眠くなるので、朝まで酔っぱらうことはできない。酒好きなダムロンも、この夜は水割り1杯だけにしていた。遊びとはいえ、皆で釣りをする以上は酔ってしまってはいけないのだ。

しばらく皆で食事をしながらも、例のウキにつけたケミカルライトの輝きを何の気なしに見ていると、微妙に揺れる光がなぜか明滅しだした。「風に揺れているのかな」とも思ったのだが、今夜はそれほどの風もない。私が注視しているものだから、ダムロンもウキの明滅する光を見て、「あれは当たっているということか?」とかウィラットに聞いている。
皆が食事をしながら注目していると、突然ウキの光が消えた。もう光り出さないことを確認してから私は立ち上がり、竿のところにかけつける。念のために、皆と同じようにつけてあった練り餌の目印を見ると、かなり下に落ちて揺れていた。道糸に触れると、ブルンプルンと確かに魚がかかっている感触が伝わってきた。途端にアドレナリンがドッと出たらしく、顔がカッと熱くなった。何とかこの興奮を抑えつつ、不慣れであるのでとにかく慎重にと、リールをロックしてから、見よう見まねのカラ合わせをすると途端にガツンと来た。ピュルルッと糸鳴りがして、突然強く引かれた。あわてて竿を立て直すと、ロックしてあるリールからジャーッとすごい勢いで糸が出て行く。

デ、デカイ!!

グングンとものすごい勢いで糸が引かれるたびに腕が伸びて行く。またあわてて立て直すと、さらに糸が出て行く。コイツは本当にデカイぞ~。
ダムロンが立ち上がってこちらにやって来るのを目の端でとらえながら、伸びてしまった腕を補うように体を反らせて踏ん張る。そんなつもりはまったくないのに、踏ん張っている足が少しづつ前に出てしまう。その1m先は低い崖のようになっていて、もし落ちてしまったらアウトである。ダムロンが私の後ろに来て、ズボンのベルトをつかんで後ろに引いてくれたので、どうやら崖から落ちる心配はなくなっだが、魚はさら引きを強くして来て、全然寄せるどころでの話ではない。その魚の引きの強さは、非力な私の力の限界を超えていた。「このままでは取り逃がしてしまう」、そう思い「だめだ~。ダムロン、かわってくれ~!!」と言って、ダムロンに釣竿をまかせてしまった。
よし来た、と釣竿を受け取ったダムロンは、やはりすごいパワーであった。すぐに魚の動きを制御してしまい、しばしの引き合いの後にゆっくりと寄せ始めた。
それでもダムロンはなお慎重で、20分ほどもかけてやっと取り込んだ獲物は、一度は釣ってみたいと思っていた巨大な鱒、プラーレンであった。後で計量すると、85cm・9kgもある大物であった。

やった~!!ついに最高の獲物、巨大鱒を釣ったぞ~!!

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