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連続ノンフィクション小説 ダムロン物語~あるチェンマイやくざの人生~ 第36話~第40話 by蘭菜太郎

ダムロン物語
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第39話:ダムロンが抱える爆弾の発覚(1)

その日は予定通りにやや遅い昼食の後、ダムロン、ティップ、ウイラットと私、それに舎弟のパンの5人で夜釣りに出かけた。居候のパーンは、ブンと2人でケオとソムサックの見張りのために残った。

行きがけに釣具屋に寄って道具を買い足して、肥料店で練りエサの材料を買い、市場では酒の肴や夜食のおかず、飲みものからお菓子まで大量に買い込んだ。
釣り場に向かう車の中でも、話題はとにかく始めることになった商売の話になってしまう。「今、タラート(市場)を見て思ったんだけど、いっそのことタラートの中に店舗を構えるのもいいかもしれないぞ。もちろんタラートにも色々あるだろうけど……」と私が言うと、ダムロンは「商店街の中のホンテオ(タイ式の長屋)で2階も借りられるようなところならば、必ずしも家に帰らなてもいいから、遠くてもだいじょうぶだ」とか言っている。するとウイラットが、「俺の住んでいる宿舎の周りは最近すごく整備されて来てよ、あの辺りならば環境も客の質もいいぜ」などと、それぞれがてんでんばらばらに好き勝手なことを言い合っていた。

釣り場に到着したのは、もう4時過ぎであった。いかに南国のタイであっても、秋は陽が短い。「今日は用意する竿の数も多いから急ごうぜ」とウイラットが言うと、いち早く車を降りたダムロンが下方に向かって両手でメガホンを作ったかと思うと、「アーラララッ!!」と、とんでもない奇声を上げた。まるでインディアンである。すると、はるか下方から「ホーイ!!」と返事が聞こえ、やがてポーンがダムの急斜面をはいずり登って来た。いかにも人のよさそうな、はにかむような笑顔で我々ひとりひとりに手を合わせてワイ(挨拶)をすると、私に「いつ来たんだ?」と聞いてきた。「昨日なんだよ。今日は大人数だが、またよろしく頼むよ」と私が言うと、「とにかく急ごう」と言って、早速小分けされた荷物を2つ3つ持って運び始めた。
以前、ここを訪れた時には本当に何もなかったが、何と今では店ができていた。無論、堀っ建て小屋に毛の生えた程度のものだが、飲み物やつまみ、釣り餌なども売っている。この釣り場のすぐそばにはバス停があるが、肝心のバスを見たことは一度もない。まあ運行しているにしても、こんな辺鄙なところでどれほどの人が乗り降りするものか……。利用するのは、せいぜいここに毎度釣りに来ている常連たちぐらいのものではないだろうか。
店は、休むスペースが大きく取られていて、昼寝をしたら気持ちがよさそうである。一部の釣り師達にとって、この店のオープンは画期的なことであった。
「レストランができたのか、すごいな~!!」と感心してよく見ると、店の裏手のダムの斜面が始まるところに、サーカスの仕掛けのような妙なものがあった。それは木の柱で、洗濯物を干すのに使うにしては明らかにおかしい。柱は1本しかなく、そこから滑車を通してロープが下方に張られている。そして、その先は堤防に生えた雑木や雑草で見えない。ロープにはかぎが取り付けてあって、そのかぎには空っぽの籠が下げられていた。どうやら、下の釣り場まで注文があったものを出前するための工夫であるらしい。
「そうか、なるほどなあ……」と感心しているとウイラットがやって来て、「この店が1ヶ月ほど前にできてよ、みんなで考えてコイツを作ったんだ。これのおかげで、暗くなってからでも買い物ができるようになったんだ。店はポーンの住まいも兼ねているので、ここは24時間営業みたいなもんだしな」などと言っている。
みんなは、それぞれが急いで荷物を下に運び始めていた。先に行ったポーンは、早くも一往復して戻って来た。私も両手に荷物を抱えて、ダムの急斜面を危なっかしく降りて行った。これだけ毎日釣り人が登り降りしているので、何となく人が通った跡は見分けることはできるが、それほど歩きやすくなってるわけではない。せいぜい背の高い刺のある草が抜かれている程度である。何とか無事に水際まで降り着き、以前来た時にバラックが建っていた場所へ荷物を持って行くと、それは真新しいものに建て替えられていた。構造的にはほとんど同じで、地面に立てた4本の柱の50cmほどの高さのところに床が造られた小屋であった。椰子の葉で編んだ屋根がかかっているが壁はなく、床は竹でできている。しょせんは堀っ建て小屋ではあるが、前のものよりもいくぶんか大きく、数人での雨しのぎにはこれで十分である。
ウイラットの話では、ダムロンが材料を買い、ポーンが仕事をして最近建てたとのことであった。これをポーンは便利に使っているらしく、釣具や魚網、衣服や生活用品が置いてあった。ダムロンによれば、ポーンはこの頃連日ここに泊まり込んで家に帰らず、そのかわりに家族がここに来て、ポーンの食事や着替えを持って来るんだとのことであった。そうか、ダムロンは釣りに来た時にだけ使うが、ポーンにとっては仕事場なのだ……。

男どもが釣りの支度をしている間にティップは小物釣りを始めて、結構釣れている。私も一緒にやってみようかとも思ったが、もうすぐ日が落ちる今から支度を始めるのも億劫なので、みんなが馬鹿を言いながら大物釣りの支度をするのを何となく眺めていた。

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