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連続ノンフィクション小説 ダムロン物語~あるチェンマイやくざの人生~ 第6話~第10話 by蘭菜太郎

ダムロン物語~あるチェンマイやくざの人生~ 第6話~第10話 ダムロン物語
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第10話:チェンラーイでの射撃

チェンラーイに来て数日たったある日のこと、街の食堂に入り3人で昼飯を食べていると、突然ダムロンが「暑い、暑い。」と言ってシャツを脱いでしまった。

驚いたのは、ダムロンの後ろで食事をしていたおじさんである。すっかりあわててしまい、食事をのどに詰まらせてむせかえっている。ダムロンが後ろを振り返ってジロリとにらむと、何とか静かにしようとこらえるのに懸命だ。ダムロンが食事を再開すると、飛び出しそうに目を見開いて、背中の入れ墨を見ている。一緒にいたおじさんより少し若い男に、「あれを見ろ、ヤクザ者だ。」とわかり切ったことを声には出さず、ジェスチャーで知らせている。連れの男は、懸命に口へ人差し指をあてて、すごい目で彼を戒め、ひたすら関わり合いになることを恐れて目立たないようにしている。長四角のテーブルで、ダムロンの正面に並んで座る私と一郎には、これらの様子が手に取るように見え、2人とも笑いをこらえるのに懸命であった。2人で引きつったような顔でガマンしていると、「何だ、何があったんだ?」とダムロンが聞いてくる。もう完全に我慢できなくなり、一郎とそろって吹き出してしまった。

食事が終わって、その日は予定もないのでどうしたものかと話し合っている時に、「射撃でもやりたいけど、ここの射的場は弾売りだけで、拳銃の貸し出しはしてないんだ。」と言うと、ダムロンは「それじゃあ、拳銃を何とかしよう。」と言い出した。

「エーッ!そんなこと言ったって、まさか警官に借りる訳にもいかないんだから、どうするんだ?」と聞くと、「いや、警官から借りるんだ。」と言うのだ。私は、「何をバカなことを。そんな無茶をして、今晩は警察泊りなんてイヤだぜ~。」と冗談混じりに笑いながら言ってみたものの、ダムロンは本当の恐いもの知らずだから、マジにとんでもないことをやるかもしれないと考え、少々心配になった。

「大丈夫、俺にまかせておけ。」と言うので、どうするのか見ていると、大通りの方へ歩いて行きながら警官を探している。すると、向こうから2人連れの警官がやって来た。2人の警官は、何ごとか話しながら私達の前を通り過ぎて行く。ダムロンは、じっと腰の拳銃を見ると、突然警官に突進していき、ガバメントのオートマチックを右腰にさげた一方の警官の腰にしがみついた。しがみつかれた警官は、最初は大あわてとなったが、力加減からすぐに冗談とわかって、「おいおい、何をするんだ。」と言って笑っている。もう一方の年配の警官も、それを笑いながら見ている。ダムロンは「拳銃を貸してくれ。頼む、拳銃を貸してくれ。貸してくれないと、死ぬ~。」とか言っている。私は、あんな露骨なことをして本当に大丈夫かいな?と、ますます心配になってきた。

ところが、警官達はえらく好意的に話に乗ってくれ、「これから一度詰所まで戻らなければならないが、その後ならばよい。」と言うのだ。「エーッ!そんなことが許されちゃうの!?」と、私と一郎の2人はあきれて果ててしまった。私達は、警官の後ろについて、サークル型の交差点のまん中にある詰所までぞろぞろ歩いて行った。驚いたことに、交差点のド真ん中だというのに、詰所の横に射撃の的が張ってある。警官が、ガバメントを腰から抜き、的に向け撃つ真似をして笑っている。

警官の仕事はすぐに終わり、さっそくみんなで射的場まで行くことになった。2人の警官はバイクに相乗りして先に行き、後から3人の乗った車でついて行く。

2人の警官が案内してくれた射的場は、チェンラーイのほぼ中心にある私たちのホテルから、車で15分ほどのところにあった。プレハブのガレージみたいな簡単な造りの射撃場で、最長25mの射場が5席と15mのエアーピストル用の射場が10席ほどあった。まだ子供みたいに若い男性2人がエアーピストルを撃っている以外、ほかに客はいない。ダムロンと冗談を言い合っていると、弾丸の購入手続きなどすべてを2人の警官がやってくれていた。45口径のガバメント用が25発、38口径チーフスペシャルが50発、それに22口径スペシャル弾50発を射座のテーブルに並べてくれ、自分達それぞれの拳銃を抜き出し、装填してある弾丸を抜いてポケットに入れ、買った弾丸を装填してくれた。まだ真新しいガバメントの45口径オートマチックと、やや年期の入ったスミス&ウエッソンのリボルバー38口径、それにこの射撃場で借りたコルトのリボルバー22口径の3挺の拳銃が並べられた。2人の警官は的を張ってくれたり、膨らませた風船を固定してくれたり、大サービスである。身体の小さい東洋人向きではないカバメントは、いつのもの通りただぶっ放すだけの代物だが、年配の警官が貸してくれたスミス&ウエッソンのリボルバー38口径はとてもバランスがよく、命中率がよかった。

1時間ほどで撃ち終わり2人の警官に拳銃を返すと、2人とも拳銃を一度バラバラに分解して手入れをしていた。2人の警官に約束の拳銃の借り賃200バーツづつを渡すと笑顔をさらに深め、「同じ時間なら明日もいいぞ」と言い、バイクの相乗りで戻って行った。

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