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連続ノンフィクション小説 ダムロン物語~あるチェンマイやくざの人生~ 第6話~第10話 by蘭菜太郎

ダムロン物語~あるチェンマイやくざの人生~ 第6話~第10話 ダムロン物語
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これは、私が民芸品やルビー、サファイヤなどの色石を買いつけるために、チェンマイを頻繁に訪れているうちに縁あって知り合い、後に私の親友となったタイ人のダムロンとその家族の話である。
彼の波乱万丈の人生はいまだに続いており話は完結してないが、彼と知り合ってから39年の途中経過として、この話を記することにする。【蘭菜太郎】

>>>登場人物紹介

≪注≫本文中に登場する人物などは、すべて仮名です。また、写真と本文とは一切関係ありません。【ガネッシュ】

第6話:ダムロンの正体

そのとても無秩序なパーティーも8時を過ぎると急に人が減って、例の小博打も面子が揃わなくなり、早々にお開きとなった。調理や賄いを手伝ってくれていた近所のおばさん達も、余った食べ物を手に持ちながらみんなダムロンやティップにひと声ふた声かけて帰って行き、縁台の周りは家族と4~5人の近所の人だけになった。

ケオにサームローでホテルまで送ってもらいながら聞いたところ、パーティーには1万バーツ以上かかったようで、やはりすべての費用がダムロンから出ており、祝われた子供の父親のケオには金がなく、病院の費用すらもティップから借りており、パーティーの費用など出せなかったそうだ。

「ダムロンには、どうして金があるんだ?」と聞くと、ケオはニヤリと笑って「知らない」と言う。ニヤリと笑って知らないと言うことは、「知っているが言えない」ということで、言えないようなことをしているのであれば、長兄ダムロンは、やはりかなり危ない人のようである。

そして、その無秩序なパーティーから1カ月ほど後、ついに長兄ダムロンの本業をかいま見る機会がやって来た。

それは、雨期に入る前のやたらと蒸し暑い日で、隣家に住んでいるブン、それにケオと私の3人が、ケオの家で「暑い暑い」と言いながらトランプ遊びに興じていると、ダムロンの家の前に見なれない車が止まった。この辺りではめったに見られない高級車なので、「何だ、誰だ」と見ていると、白人が一人降りてきた。そして、そのファランは、迷うこともなくダムロンの家に入って行った。ケオに「あのファランは何者なんだ?」と聞くと、ニヤリと笑い、「ダムロンの友達で、年に2~3回来る人だ」と言う。それ以外は名前も国籍も知らないらしく、ケオは話をしたこともないらしい。10分ほどたってから、ダムロンとそのファランが家から出て来た。ダムロンは私の方を見て、軽く手を上げて挨拶をしてから車に向かい、助手席に乗り込んだ。ファランがゆっくりと運転席に乗ると、その黒い高級車は、まるで辺りを騒がせることを恐れるように、そっと静かに走り去って行った。

それは非常に不自然で、訳ありげなものだった。色々な可能性が私の頭の中でひらめき、「まさか」と「かもしれない」を繰り返した。ケオに「ダムロンは、どこに行ったのか?」と聞くと、ニヤリと笑って「知らない」と言う。私は、ますます混乱してしまった。まさか映画でもあるまいし、どこかの国際的組織が絡んでるとかじゃないだろうね。あのファランがどこかの情報組織か何かのスパイで、ダムロンはその手先だったりしたらスゴイよ、などと大袈裟に考えてしまう。ダムロンの親友である警察官のウイラットとの関係かとも考えて、「もしかしたら、あのファランは、警察かCIAじゃないのか?」と聞くと、そばにいたブンが吹き出して大笑いした。そしてブンは、兄弟のケオが決して教えてくれなかったダムロンの生業を、ケオの顔色をうかがいながらゆっくりと話してくれた。

その話の間中、ケオは否定も肯定せず、ずっと黙って聞いていた。そのブンの話では、「あのファランはそんな大層な者ではないが、いずれにしろ、どこかのマフィア組織の構成員であることは間違いない。あれは、間違いなくヘロインを買いに来たんだろう」と言う。無論、あのファランの個人用ではなく、ビジネスのためのもので、そうした取引の仲介をダムロンは以前からしているようだ。

この程度のことは親しくしている人の多くが感づいているが、決してそのことを誰かに話したり、噂にすることはない。そんなことをすれば、普段から世話になっているダムロンやティップに迷惑がかかるし、それこそ近所からまともに付き合ってもらえなくなってしまう。そして、だからこそ、ダムロンはちょっと夫婦で小旅行をした時でも、近所中に土産を買って来たり、個人や家族の抱える色々な問題の相談に乗ったり、あのパーティーのようなお祝いを兼ねて、みんなにご馳走したりしているのだと教えてくれた。

警察官のウイラットは、多分何も知らないだろう。知っているとしても、見て見ぬふりをしており、このことに何の関係もしてはいないらしい。ダムロンは、刑務所へ行くことよりも、親友のウイラットに迷惑がかかることを恐れている。ブンは、「だから、ウイラットには無論のこと、ダムロンの仕事については誰にも話したり、聞いたりしてはいけない」と、子供を諭すように話してくれた。そして、最後にブンはケオを見て、「事情を教えておかないと、まずい人にまずいことを聞いたりするから」と言い、ケオはそれにうなずいていた。

なるほど、これで疑問のほとんどが解決できた。ダムロンの生業は闇取引の仲介で、それをずっと隣近所に知られずにいることは不可能なので、公然の秘密になるように常に努力しているのだ。周りの人もこれを理解・了解しており、外部に漏らすことはない。タイ警察は、情報提供者には賞金を出すが、親友のウイラットには通報者が誰かすぐにわかるだろうから、バカなまねをする人もいないのだ。ダムロン自身は、一切麻薬に手出しすることはなく、また個人的な小売りもしないので、現物を手元に置いておくこともないのである。

自分の公然の秘密を私が知ったことをケオからでも聞いたのか、ダムロンの私に対する接し方が、それ以後とても親しいものに変わっていった。その変化を感じてか、他の兄弟はもちろん、近所の人達までが今まで以上にとても親しく声をかけてくるようになり、彼らの家に招かれて話し込んだりすることも多くなった。

この頃になると、ケオの家にいるよりも、テレビや扇風機があり、より快適なダムロンのところにいることが多くなって来た。

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