原住民の75%が仏教徒の街パタン
ネパールの首都カトマンズのある盆地には、かつて3つ(パタンの衛星都市キルティプールを別に数え4つとする人もいる)の王都が栄えていた。
現在の首都カトマンズ、東に15kmほど行ったところにあるバクタプール、それにカトマンズとバグマティ川をはさんだ南側にあるパタンだ。
それぞれの王都をじっくり見て回ると街の景色や文化的な香りが微妙に異なることに気がつくだろうが、その違いを作り出している大きな要因のひとつが原住民に占める仏教徒の比率にもあるだろう。
カトマンズはネパール全土のみならず、かつてはチベット←→インド交易の中心地でもあったことからか仏教徒とヒンドゥー教徒の比率が50対50だが、バクタプールは仏教徒は25%にとどまっており、一方パタンは75%が仏教徒と圧倒的なマジョリティーとなっている。
そのため仏教芸術が盛んであり、あまり知られていないがチベット王国の首都ラサにあるポタラ宮は建物も中に安置されている仏像や仏画などもほとんどが大昔にパタンから職人が渡って作り上げたものだ。
そんな仏教色の濃いパタンの街はカトマンズ盆地の中でも特に日本人に親しみやすい雰囲気があり、自分も1988年から2年ほど住んでいたのもこの街の少しはずれにあった仏像工房の家であった。
今ではマオイスト(毛沢東主義者)のゲリラ活動からカトマンズに逃れて来た地方の人があふれかえるほど暮らしているため街はどこまでも続くような大きさになっているが、元々のパタンは端から端まで20分も歩けば足りる程度の規模であり、観光スポットもほぼ旧市街に集中している。
多くの旅行者はカトマンズから日帰りで訪れるパタンだが、そんな人たちでも十分見て回れる旧市街の見どころを10カ所紹介しよう。
旧王宮の中の博物館などを含め全部をじっくり歩いてみて回ってもせいぜい3~4時間あれば足りると思う。
旧市街の見どころ9選
カトマンズからバスで来る人は、街の北西のパタンドカ(パタン門)か南東寄りにあるラガンケルのターミナルに着くだろう。
どちらから歩いてもダーバースクエア(旧王宮)までは10分ほどであり大した距離にはならないが、この記事ではラガンケルのバスターミナルから歩き始め、帰りはパタンドカ(パタン門)からカトマンズに帰るイメージで紹介している。
パタンの旧市街は迷路のようになっており「この道はどこに続くのかな?」などと考えながらウロウロしつつ見どころを回るのがおすすめだ。
ラトマチェンドラナート寺院
ラト(赤い)マチェンドラナート神を祀ったヒンドゥー教と仏教の混交寺院。
通りからからは見えず、白い門をくぐったバハル(中庭)に建っている。
内部には3重の屋根を持つ本堂と手前の小さな白いストゥーパ(仏塔)で構成されている。
この本堂は17世紀のものだが、寺院の創建は16世紀とも言われる一方バハル(中庭)に残る建造物の中には少なくとも1408年までさかのぼれるものもあるらしい。
本堂の中にあるご本尊はコミカルな顔立ちをしている。
ラトマチェンドラナート神は仏教ではアバロキティショバラ(観音菩薩)の生まれ変わりとされ、ヒンドゥー教ではシバ神の化身として雨と豊穣を司るとされている。
なぜこんな姿をしているのかはわからないが。
本堂を飾る木彫も見事で、じっくり見るとヤギにスリスリされている男性像があるなど興味深いものも多いので時間を取って眺めてみよう。
元々旧市街を出れば田畑が広がっていたパタンの住民にとっては雨と豊穣を司るラトマチェンドラナート神が鎮座するこの寺院は非常に重要と位置付けられており、毎年雨季が始まる前の5月頃にはご本尊を乗せた高さ15m以上はあろうかという山車が街を練り歩いて豊作を祈願するほか、12年(?)に1度の大祭の時は7kmほど南にあるブンゴ(ブンガマティ)まで山車をすごいスピードで引っ張っていく行事が行われ、時には死傷者を出すくらい人々は熱狂する。
マハーボダ寺院
旧市街の東の端にある仏教寺院。
ここも通りから寺院を見ることはできず、仏像屋が立ち並ぶパタンでも最もキレイに整備されているのではないかと思うくらいの道の途中にあるゲートをくぐって細い路地を進んだ先の狭いバハル(中庭)にストゥーパ(仏塔)がある。
インドのシカラ(背の高い尖塔)の外観をしたストゥーパ(仏塔)は30mほどの高さがあり、ブッダガヤの大塔をモチーフに1585年に建立されたが、1934年の大地震で崩壊し再建された。
しかしながら、2015年の大地震で再び崩壊してしまいまだ再々建の途中だ。
ストゥーパ(仏塔)の前面に小さな仏陀の像が埋め込まれており、足場が取れれば再び壮観な姿を見ることができるだろう。
仏塔を囲むバハル(中庭)の建物の壁には、似たような形の小さな仏塔やパンチャブッダ(5つの智慧を象徴する如来像)が上に描かれた入口のドア、パタンを代表する工芸品である黄金色の仏像が安置され人々がお詣りしているなど興味深いものがたくさんある。
仏塔だけでなく、そうした周囲のものにも注目してみよう。
旧王宮
中心部にあたるかつての王宮は、パタン観光のハイライトだろう。
マハーボダ寺院から歩いて来た場合は、まずは王宮の建物(写真右手)と広場を南側から見ることになる。
王宮とダーバースクエアを見学するためには入場料(とパスポート)が必要だが、パタンに泊まっていたり複数日に渡って来る予定があるのであればその旨入場料を支払う時に伝えると1週間(だったかな)有効のパスをくれるので要求しよう。
広場から見る王宮の建物は当時の贅を尽くしたのだろうすばらしい木材や石材、金属を使った装飾や仏像などで装飾されており、細かく見ていけばキリがないくらいだ。
王宮の内部の一部は博物館になっている。
街じゅうが博物館と言ってもいいようなカトマンズ盆地のさまざまな寺院などを見てしまうと、ここに展示してあるものと外に無造作に置かれているものの価値がどのくらい違うのかわからなくなってしまうかもしれない。
王宮内の一番の見どころと自分が思うのは、博物館よりもその南にあるムルチョウクとスンダリチョウクだ。
どちらもすばらしい木彫の窓の建物に囲まれた広場風だが、とりわけスンダリチョウクがすばらしい。
中央には周囲を石仏に囲まれた井戸のようなものがあるが、これは「トゥシャヒティ」と呼ばれる王の沐浴場だ。
17世紀中ごろに造られたこの沐浴場は日常的にではなく宗教儀式の時に主に使われ、周囲を72の石仏で囲んでいる。
スンダリチョウク全体の修復工事が完了した直後に発生した大地震で大きく損傷してしまい、再度修復されている。
スンダリチョウクの建物の上階からは、王宮前の通りの様子を見おろすことができる。
昔の王族たちもこうして人々の行きかう様子を眺めていたのだろうか。
ダーバースクエア(旧王宮前広場)
王宮の向かい側のダーバースクエア(旧王宮前広場)には、大小さまざまな寺院や塔、祠が点在している。
残念ながら2015年の大地震でほとんどの建物が大きな被害を受けてしまい、修復されたか現在もなお修復工事中になっている。
知識があればひとつひとつじっくり見ると楽しいだろうが、そうでなければひと通り眺めるだけでもいいと思う。
ロンリープラネット(英語の有名ガイドブック)にはひとつひとつが詳しく解説されている。
クンベシュワール寺院
旧王宮から北に進んで行くと、家並みの間から突き出た塔が見えて来る。
これが、パタン最古と言われるヒンドゥー教寺院のクンベシュワールだ。
石像(日本で言う狛犬)に守られた門から中に入ると、中には小さいが非常に美しい五重塔が建っている。
残念ながら、こちらも地震で大きな被害を受けてしまった。
カトマンズ盆地の寺院でも五重塔がある寺院は3か所(一番有名なのはバクタプールのニャタポラ寺院)しかなく、そういう意味では非常に貴重だ。
また、寺院内にある池はランタンヒマール山中の聖地ゴサインクンド湖とつながっているという伝説がある。
このように非常に霊験あらたかとされているからか、この寺院ではお祭りのようなものが催され人が大勢お詣りしていることが多い。
また、寺院の北側には立派なストゥーパ(仏塔)が建っているがこれはアショーク(アショカ)ストゥーパと呼ばれ、かつてはパタンの街の北端を示す目印だったという。
ナクバハル(黄金寺院入口)
パタンの仏教文化を代表する黄金寺院(クワバハル。下記参照)へは、このバハル(中庭)から続く細い路地を通って行くのが一番おすすめだ。
バハル(中庭)自体には特に見るものがあるわけではない。
内部には「黄金寺院(クワバハル)はこちら」という小さな標識が設置されている。
黄金寺院(クワバハル)
上記ナクバハルにある標識にしたがって門をくぐり、「これぞパタンの旧市街」といった感じの家と家の間の細い路地を進んで行く。
しばらく進むといきなりポカッと開けた空間に出る。
ここが旧王宮やマハーボダ寺院と並ぶパタン観光のトップチョイスと自分が思う黄金寺院(クワバハル)だ。
黄金寺院(クワバハル)は12世紀建立のパタンの仏教建築の粋を集めた寺院で、現存する建物で最も古いものは1409年までさかのぼるという。
本堂の前面を覆っている黄金の板には仏像などが彫られており思わず見入ってしまうほどのすばらしい出来ばえだ。
本堂内を含め、多くの仏教芸術はネワール様式とともにチベット様式のものも多く、大昔からの両国の交流を物語っている。
ニャクチョウクバハル
ネワール仏教様式が全体に色濃く残っているバハル(中庭)。
バハルにはいくつもの小さなストゥーパ(仏塔)が建っている。
バハル(中庭)を取り囲む建物はシンプル、というかどちらかというとパタンの街では粗末な部類に入るかもしれない。
このバハル(中庭)の家は今も人が普通に生活しており、その様子を見ることもできる。
正面というか、内部にはここに住む住民(基本的には一族)のための仏壇があるバハル(中庭)の中心となる場所の入口には仏画がいくつも飾られているほか、上部には小さな塔のようなものも造られている。
観光スポットではないので人もおらず静かなことが多いが、ローカルのバハル(中庭)の雰囲気が楽しめると思うのでぜひ立ち寄ってみよう。
アショーク寺院
大きな白いストゥーパ(仏塔)がいくつも建っている寺院。
寺院は17世紀創建だが、チベット仏教様式のこのストゥーパは600年以上の歴史があるという。
そのためこの場所は「アショーク仏塔」とも呼ばれている。
どちらのストゥーパ(仏塔)にもボードナートやスワヤンブナートと同様「智慧の眼」が描かれている。
ビムバハルポカリ
アショーク寺院の東側にある大きな池。
中央には出島のようなものが作られており、東屋風の建物もあって休憩することもできる。
が、池の水はきれいではないし、そんなに気持ちよく休めるような場所でもないように思う。
街の中心部近くにこれだけの大きな池があるということは、昔は貯水池あるいは水場として使われていたのだろうか。
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