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連続ノンフィクション小説 ダムロン物語~あるチェンマイやくざの人生~ 第41話~ by蘭菜太郎

ダムロン物語
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第43話:ティップの店を造る(2)

翌日、昼前にダムロンの家に行くと、家の前がすっかり片づけられ、パンとブンが竹の仕切り塀を取り外していて、そばでダムロンとヌックが腕組みしながらその様子を見ていた。「何だ、もうあらかた片づいたじゃないか」と言いながら近づいていくと、「いや、ここまでは簡単だが、これからが大変なんだ。まずは、あいつを何とかしなければならないんだよ」と言ってダムロンが指差したのは、敷地の片隅に生えているマンゴーの木であった。直径が30cmほどあるその木は、毎年たくさんの実をつけて、それをダムロンの家族がムダなく食べていたのであった。
「なんだ、切ってしまうのか。そいつはもったいないなあ。何とか残してやれないのかい?」と聞くと、ダムロンはすでに同じ質問をヌックにしたのであろう、「そうなんだ」と言った顔でヌックの顔を見ている。ヌックは困ったような苦笑いを浮かべながら、「あれを残したんじゃあ、見た目も使い勝手もまったく悪くなってしまう。まともな建物を作るためには、どうしても切らなくてはならないよ」と言う。

そのマンゴーの木を取り除くのは、ダムロンの予想通りえらく大変であった。まずは根元を切るのだが、ヌックの貸してくれたノコギリはとてもプロの大工が使うとは思えないやわな代物で、こいつで結構な太さの生木を切るのは難儀である。しかも、切り残しを短くするために下の方から切ったので力が入らず、大の男が代わる代わるがんばっても一向に切り進めなかった。結局、最後は木の周りにぐるりと深さ数センチの溝を切り、みんなで蹴って折り倒してしまった。それから根起しをしようとしたのだが、木の根は堅い大地にガッチリと食い込んでいて、完全に取り除くのはさらに大変であることがわかった。ヌックが「このままでもだいじょうぶだ」と言うので、結局は刈り株をノミで短く削り取って、そのまま残すことにした。

マンゴーの木をようやく取り除くと、昼飯にしようということになり、ダムロンの家の下の縁台でパンが買って来たカーオマンガイの弁当をごちそうになる。その間も、ダムロンはヌックと仕事のことを話し合いをしている。なんでも、午後には土台のための砂利が運ばれて来るそうで、それからが大変なのだと言う。どうやら、ダムロンは店を建てるのにヌックのほかには人を頼まず、自分達ですべてをやるつもりらしい。
ますますもって、どんな店ができるものやら心配になってくる……。

昼飯が終わると、ダムロンに言いつけられてケオとソムサックも出て来て、みんなと土ならしや穴掘りを手伝っている。ふたりとも、見たところは元気そうである。
ダムロンが戻って来たからには、彼らに対する監視も当然厳しくなっているのだろう。確かにこのところはおとなしくしているようだ。奥の方ではふたりの奥方、ニンとボアライがティップと一緒にどかされた鉢植えなどを整理している。家の前の通りでは、年長の子供が年下の子供の面倒を見ながら遊んでいた。どうやら、久し振りにダムロンの家族がひとつの目的でまとまることができたようだ。

コレコレ、これがほしかったのだ。

この協力体制なくして、このコミューンづくりの真の成功は有り得ないのである。それにしても、いったいぜんたいどんな店ができるものやら……。

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