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連続ノンフィクション小説 ダムロン物語~あるチェンマイやくざの人生~ 第31話~第35話 by蘭菜太郎

ダムロン物語
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第35話:夜釣り(3)

午前9時頃、「そろそろ引き上げよう」とウィラットが言い、帰り支度が始まった。小物はウィラットの釣った分まで合わせると5kgほどになったので、これはティップへの土産にする。
彼女の作る小魚のバナナの葉の蒸し焼きは、ものすごくうまいのだ。溶き卵に山椒や唐辛子をたっぷり入れたつなぎに丁寧に骨抜きした魚の身を入れ、バナナの葉で包んだものを炭火でじっくりと蒸し焼きにしたもので、バナナの葉の香りが香ばしくついていて、これをおかずにしてカーオニヨウ(もち米)を食べると最高なのである。しかも、このくらいたくさん小魚があれば、大量に作りひとつ5バーツで売れるのだ。ティップの作るこの料理はとても評判がよく、わざわざ家まで「今日はないのか?」と、聞きに来る人も多いという。1kgの魚を手間かけて調理すれば2~30個は作れるので、このくらいあればかなりの現金収入になる。帰り支度がまとまると、手分けして荷物を持ちダムの急な斜面をはいずり登って行く。釣った魚の分だけ荷物が増え、私が車の止めてある木陰で一服している間に、ウイラットとポーンは2往復して運んでいた。
やっとのことで荷物を運び終え汗を拭うと、早速ウイラットは唯一の大物の鱒を、さも愛しそうに傷つけぬように慎重に布に包み、さらにに網に入れている。「市場で売るのか?」と聞くと、「いや、家で食うんだ」と言う。「ウチの家族はこの魚が大好きなんだ。毎日食べても飽きない。俺はフライが好きだし、子供達はこいつの焼き物が大好物だ。ウマイんだぞ~!」と言って、舌なめずりをしている。「そうかい、そんなにこの鱒はうまいのか。そいつはぜひ一度食ってみたいな」と言うと、サンパコーイに帰り着いたら少し分けてくれると言う。「本当かよ、それでは鱒で腹ごしらえをしてから、ホテルに寝に帰ることにしよう。こいつは楽しみだな~。」と喜んでいると、ウイラットは「でもな、ここにはプラーキヨウという50cm、2~3kgの腹の黄色い魚がいるんだが、こいつはプラートーン(金の魚)とも呼ばれ、市場に持って行けばほしい奴がたくさんいて、その場で即席の競りが始まるくらいなのだが、こいつはまず釣れることはなく、ポーンの仕掛ける置網にたまにかかるだけなんだ。こいつを一度食ったことがあるが、それは絶品以外の何ものでもなかった。競りで時にはキロ1,000バーツもの値がつくのもうなずける味だったな」と、帰り道にピックアップを運転しながら教えてくれた。
このプラーキヨウは、タイでは私もいまだにお目にかかったことがないが、おそらくイトウかその仲間と思われる。私は、以前ネパールの山の中の大きな湖でイトウを釣り上げたことがあり、そのうまさが忘れられない。そのイトウも、まるで絵の具で塗ったような見事な黄色い腹をしていた。

チェンマイに帰り着いたのは昼近くになったが、予定通りにサンパコーイでもらった鱒をおかずに食事をしてから、ブンやパンと釣りの話をしたり、例のバナナ葉の焼き物のための下ごしらえをしているティップの仕事を見ながら、夕方近くまで過ごしてしまった。昨晩一睡もしていないので疲れてはいたが、なぜか昨晩の大物釣りの興奮がまだおさまらないようであった。ホテルに帰り風呂に入って寝たのは結局暗くなってからで、その時には本当にドロのように眠った。

翌日、昼近くになってからサンパコーイに行くと、ちょうどウイラットが来ていた。ティップは四角いコンロに炭を焚いて、例のバナナ葉の焼き物を焼いていた。すでにかなりの数ができあがっていて、ウイラットがこれと一緒にニコニコ顔でカオニヨウを食べていた。見ると、今焼いているのは以前見たのと同じ程度の大きさだが、すでに焼き上がっている物の多くは半分ほどの大きさしかない。どうして大きさが違うのだ?と聞くと、「小さいのは市場に持って行って、商売人にひとつ3バーツで売るのだ」と言う。商売人はこれを買って5バーツでお客に売るのだそうで、大きいのは近所の人に5バーツで売る分だ、ということであった。小さい物だけでも見た目で100個くらいあり、大きいのも50個以上はある。

ウイラットが一緒に昼飯を食え、とか言っているが、ホテルで遅い朝飯を済ませて来たので遠慮する。一昨日の大物釣りの興奮を思い出して、ダムロンが出て来たらまた一緒に行きたいな。きっとダムロンは大喜びするだろうな、といつの間にかダムロンの話題になった。

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