第3話:ケオの一家
ケオの家は、タイでよく見られる高床式のバラックだったが、床が地面から60~70cm程度の高さのところにあり、どちらかといえば背の低い、角の欠けた長方形の平屋づくりであった。入口になった一角には、3段のハシゴがかけてあり、それを登ると小さな踊り場があって、また2段の階段になっていて、その先に4畳半ほどの狭い部屋があり、夫婦の生活空間のすべてになっていた。
ケオの2歳になる息子のセンは、女の子のようなカワイイ子供だった。ちゃんと男の子の服装をさせているにもかかわらず、言われるまでは女の子だと思っていたほどであった。が、後にケオは、「センはふたなり(両性具有)で生まれ、男性器を残して女性器を閉じ男の子としたので、実際に半分は女の子だったんだ」と、恥ずかしそうに教えてくれた。
そのうちに、雲助の溜まり場に行くよりも、直接ケオの家に遊びに行くことが多くなってきた。ケオの奥方のボアライは、初めて会った時にはすでに妊娠3か月だったそうで、一定期間をあけてチェンマイに来て彼女に会うごとに、お腹が膨らんできていた。翌年の4月のこと、いつものようにサンパコーイに遊びに行くと、ケオの家は施錠されて誰もいないにもかかわらず、サームローは家の前に置いてある。「一体、どうしたんだろう?」と思っていると、長兄ダムロンの奥方であるティップが、ニコニコ笑顔でやって来た。ケオに2人目の息子が生まれて、彼女は今病院から戻ったばかりで、ケオの方はまだ病院にいる、とのことであった。母子ともに順調らしく、それはめでたい、よかったよかったと話をしていると、ケオの2人の弟、ソムサックとゲアッがやって来て、朝方ボアライが産気づいてから病院に連れて行くまでの騒ぎや、何と3,900gもあったという大きな赤ん坊のことなどを、楽しそうに教えてくれた。
年長のソムサックは28歳とのことで、末弟のゲアッは20歳になったばかりの大学生であった。さらにその下の末っ子には、19歳になる妹のニーパポンがいるが、彼女はすでに仕事に就いていた。もう1人、この家にはウィという10歳くらいに見える女の子がいたが、このかわいらしい娘は、家族の知りあいの女性が出産した直後に亡くなったために残された子供で、ここの家族として引き取って育てているのだと聞いた。ソムサックは結婚して3年目ということで、ケオの長男センと同じ年齢のノーンラップという長女がいたが、この子には障害があることが明らかで、体も小さく3歳になるのにまだ歩くこともできなかった。ソムサックは、今は自動車整備工場で働いているが、もう少したってラムヤイのシーズンが始まると、嫁さんのニンの実家でラムヤイの収穫を手伝うそうで、行けば2か月以上はチェンマイには戻ってこないと言っていた。