「タイ最西の地」が建つメーソート
タイと西隣の国ミャンマーとの間には国境が何か所ありそのうちのいくつかは外国人でも越えることができるが、ミャンマーの旧首都ヤンゴンまで500km足らずのメーソートは旅行者にとって一番ポピュラーなボーダーだろう。
1988年に当時のチャチャイ首相が「インドシナ地域を戦場から市場へ」というキャッチフレーズとともにいわゆる「バーツ経済圏構想」を唱えて以来道路が急速に整備され、バンコクとタイ北部を結ぶ国道1号線とラオス、ベトナムへと通じる国道12号線がクロスする交通の要衝タークからメーソートへと続く国道12号線も物流の大動脈として2車線以上のきれいな道路となっている。
その結果、自動車で6時間ほどの首都バンコクから国境を越えずともメーソートを目的地とする人々(主にタイ人)もたくさんやって来るようになったことから観光客目当てのスポットも整備が進んでいる。
地図を見ると本当はそうではないことがわかるが、国境のすぐ近くには「タイ最西の地」という碑が立てられ多くの観光客が記念撮影をしているのを見ることができる。
タイの地図を見てみるとカンチャナブリー県のスリーパゴダパスのほうがもっと西にあるのではないかと思うのだが、まあここのほうがアクセスがしやすいので記念撮影用、程度の意味なのかもしれない。
ちなみに、このような碑はタイの東西南北に立てられており、最北のチェンラーイ県のメーサーイ、最東のウボンラーチャタニ―県のメーナム・ソーンシー(2色の川が交わる場所、という意味)で同じような碑を見たことがある
国境の大きな橋のすぐ脇では人々が船で川を渡る
自分はチェンマイに住んでいるので、チェンラーイ県のメーサーイ(ミャンマー側の街はタチレク)の国境には時々行くのだが、そこと比較するとメーソートの国境は規模がぜんぜん大きい。
向こうが川幅10数メートル程度のサーイ川に自動車がすれ違え、人が1列に行き来できる程度の橋がかかっているだけなのに比べ、こちらはモエイ川自体の川幅が広いし立派なコンクリート製の橋がかかっている。
しかも、この橋とは別に街の北側におそらく物流トラック専用の「第二友好橋」まであるのだから、両国の経済的な結びつきの強さがわかるというものだ。
しかし、この橋のすぐ脇を見ていたらビックリするような光景が展開していた。
手漕ぎの渡し船が行き来している!
両国の船着き場を見てみると、すぐそばに警官か軍人かはわからないが制服を着た男性が2~3人いるので、おそらく公認なのだろう。
あるいは、役人の副収入用なのかも。
さらに川岸を歩いていたら、もっと驚くものを見た。
歩いて川を渡る人までいるではないか!!
こういうのは、密入出国にならないのだろうか?
まあ、橋という正式な国境を使わない(使えない)理由があるのだろう。
メーサーイの両国を隔てるサーイ川の川幅はモエイ川よりもずっと狭く、もっと簡単に渡ることが可能だが、こんなに露骨に橋以外の場所で国境を越えている人を見たことがない。
同じタイとミャンマーなのだがこの違いはいったいどういうことなのか、事情通の人がいたらぜひ話を聞いてみたいものだ。
ミャンマー色の濃い大通り沿いの商店街
そんなモエイ川の様子に眼を白黒させながら、国道沿いの様子を見てみる。
通り沿いに立っていたd-tacの広告看板もミャンマー語だった
ヒジャブというのだろうか、頭を覆ったムスリムの女性はチェンマイでもまったく珍しくはないが、ロンジ―(腰に巻きつけて履く筒状の布)姿の男性はチェンマイではまず見ることがない。
道路脇の歩道には、物売りの女性が出ているのだが頬にタナカ(日焼け止めの黄土色っぽい木の粉)を塗っていて、モノの並べ方もタイとは何となく違う。
近年のチェンマイはミャンマーから出稼ぎに来ている人もたくさんいてタナカを塗った女性を見ることは珍しくはなくなったが、メーソートの女性は醸し出す雰囲気がどことなく異なっている気がする。
さらに、タイとの大きな違いはこんな女性の姿に現れている
タイ人もミャンマー人もともに上座部仏教を主要な宗教としているが、やはり違いはあるのだろう。
タイ人は頭を神聖な場所と考えているので、この女性のように頭の上に物を乗せたりはたぶん絶対にしない。
頭に荷物やカゴなどを乗せて運ぶ人はインドではまったく日常の風景だが、ここメーソートにいるミャンマー人の肌の色はタイ人に比べるとずっと黒いし、ミャンマーを旅していていてもしばしば感じるのだが、インドがグッと近くなったみたいだ。
同じミャンマーとの国境でもタイヤイ(シャン族)文化が濃厚なメーサーイとはまったく違う雰囲気なのがおもしろい。
宝石などミャンマー特産品が並ぶリムモエイ市場
国境の北側に「タラート・リムモエイ(モエイ川ほとりの市場)」という観光市場がある。
ミャンマー特産品とか何かチェンマイへのお土産にでもなるものがあれば、と思い中に入ってみた。
それほど規模は大きくないが、店がぎっしりと立ち並んでいる
一番多いのは宝石屋
ミャンマーは翡翠やルビーをはじめ、さまざまな宝石を産出することで有名だが、ここメーソートでもおそらく持ち出されたのだろう宝石類を並べている店が多い。
眼がきけばいい買い物ができるのかもしれないが、自分のような素人はよいものと悪いものとの区別もつかないので、見るだけにするか買うにしても偽物だったとしても惜しくない値段のものにしておいたほうがいいかも。
やはりミャンマーから運ばれてきたのだろう、お茶やお菓子などを売る店も多い
「これなら買えるかも」と思って店頭を見てみたのだが、多くはチェンマイ市内中心部で毎週金曜日に開催される「チンホー(馬に乗った中国人=隊商雲南人)朝市」でも売っているものが多く、結局何も手に取らなかった。
ほかにはメーソートの地名がプリントされたTシャツとかも結構売っていたが、正直あまり気持ちはひかれなかった。
また、市場の外のモエイ川の堤防に沿って小さな露店がズラリと並んでいる
おそらくミャンマーからの密輸品だろう酒やたばこを主に売っており、そういうものに興味のある人は見てみるといいと思う。
店や売っている人の雰囲気が国境の街独特のいかがわしさを漂わせており、それを感じてみるだけでもおもしろいだろう。
外国人ツアーも使っている「J2ホテル」はおすすめ
メーソートで自分たち夫婦が泊ったのは「J2ホテル」
メーソートはバンコクからやって来る国内旅行の人やミャンマーへと抜けるバックパッカーも多いので泊まる場所はリゾートホテルから格安ゲストハウスまで豊富だ。
が、国境の街のホテルというのは基本的に国を越えるためにある意味しかたなく1泊する、というようなケースが多いためホテルのほうも一見の客相手と割り切っているのか、値段の割にメンテナンスやサービスがおざなりのところが多く、コストパフォーマンスが悪いことが多いような気がする。
しかし、自分が宿泊したこのホテルはまだ新しいということもあって客室は非常にきれい、朝食もしっかりしていて2人で泊まって日本円で3,000円くらいというお得感がかなり高いホテルだった。
外国人のグループツアーも泊っていたので、そういう意味でも一定のレベルは満たしている。
バックパッカーが泊まるようなゲストハウスはちょっと……というような旅行者には特におすすめだ。
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