どんなお店?
主に中国系タイ人の間では、早朝や夜遅くにパートンコー(ปาท่องโก๋=中国式揚げパン=油條(条))と一緒に豆乳(น้ำเต้าหู้=ナムタオフー)を飲む習慣があり、チェンマイでもあちらこちらでその屋台を目にするが、2003年ごろにオープンしその味のよさからたちまち人気となり、現在でもオープン前から続々と客が集まってくる店がある。
人気の秘訣は、この屋台をやっているファミリーの実家がサンサーイ(チェンマイ東北の郊外にある街)で豆腐屋をやっており、その関係で仕入れることのできる素材のよさだ。
自分も店を知って以来、かれこれ19年のお付き合いだ。
ロケーション
チェンマイ市内中心部からアーケード・バスターミナルへと続くケーオナラワット通り沿い。
ピン川にかかるナコンピン橋からアーケード・バスターミナル方面に向かい、歩道橋を過ぎてさらに少し進むと左手にプリンス・ロイヤル・カレッジ校門、右手にいすずのディーラーが見えてくる。
店は、そのディーラーの脇のちょっとしたスペース(昔はガソリンスタンドがあった)に出る。
ナコンピン橋からおよそ600m、バムルンラート通りとの信号のある交差点からだと200mほど市内方向に戻ったところだ。
お店の概要
街の北東部の観光客はあまり訪れないエリアにあるこの店は、夕方の6時に店を開く。
店は黄色の装飾が施された豆乳を作る屋台の部分、パートンコー(中国式揚げパン)の生地を伸ばして揚げる調理場と4つほどの座席が作られた緑色の屋根がかけられた部分で構成されており、屋台というよりも空き地に出るひとつの店舗と言ったほうがいいかもしれない。
メニューは当初は豆乳とパートンコー(中国式揚げパン)だけだったのだが、後に中国風のデザートのようなものも出すようになっているほかしばしば新商品が登場しており、店主の意欲の高さがうかがわれる。
豆乳を作っている屋台のガラスには、タイ語でメニューが掲げられているが、その主なものを紹介すると
*タオファー(เต้าฮวย=豆花)
*ブアローイナムキン(บัวลอยน้ำขิง=しょうがスープの黒ゴマ餡入り団子)
*パートンコー(ปาท่องโก๋=中国式揚げパン)
*サンカヤー(สังขยา=緑色のタイ式カスタードクリーム)
などとなっている。
おすすめは何といっても豆乳!
この店の最大のおすすめは、やはり何といっても豆乳だ。
チェンマイ(タイ)の豆乳屋台は、飲みやすくするためなのか、それとも量を増やして利益率を上げるためなのかわからないが、あらかじめ水を加えて薄めた豆乳を出すところが非常に多い。
しかしながら、この店はそうした文字通りの「水増し」をおそらくほとんどしていないと思われる。
その証拠に、豆乳を入れた大鍋の中には時間によってほかの豆乳の店ではまず目にすることのない湯葉ができており、希望すると豆乳と一緒にカップに入れてくれる。
豆乳そのものは鍋にバイトゥーイ(タコ椰子)の葉を入れているので薄茶色をしており非常に豆の味が濃く、それでいて大豆特有のエグさのようなものがほとんど感じられない。
なお、豆乳は「ワーン・ノーイ(หวานน้อย=甘さ控え目)」、「ワーン・タンマダー(หวานธรรมดา=普通の甘さ)」、「ワーン・マーク(หวานาก甘~い)」、「マイサイ・ナムターン(ไม่ใส่น้ำตาล=砂糖なし)」のいずれかを選んで注文するが、豆乳の風味を楽しむためにはワーン・マークは避けたほうがいい(この店でワーン・マークを頼むと「豆乳の味が壊れるのでお勧めしません」と言われる)。
また、5Bの追加料金で卵や豆類などの具(4~5種類が用意されている)を入れることも可能で、一般の豆乳とはまたひと味違ったバリエーションを楽しむことができる。
豆乳に浸しながら一緒に食べるパートンコーも、表面のカリカリとした歯ごたえと中のフカフカ、シットリ感が絶妙で、大きさもほかの店と比べると一回り大きいが、店の人の話では「香港スタイル」とのことだ(真偽不明)。
この店の中央部にある調理場では、いつ行ってもものすごい勢いでこのパートンコーを作っており、人気のほどがうかがえる。
また、パートンコーの生地を厚さ1cm、幅12~13cmに薄べったく伸ばして揚げた「カノム・ホンコン」という名前のものもおすすめ。
個人的には香港というよりも、ネパールに住んでいた時によく食べていたチベッタン・ブレッド(チベット風の揚げパン)に似ているような気がするが、パートンコーのように厚みがない分、中はフカフカしておらずボリュームがあり、小腹がへっている時などは特にいいと思う。
豆乳以外にもいろいろあるよ
タオファー(豆花)は、最近日本のコンビニなどでも売られるようになった豆腐のデザートで、日本や台湾では甘い黒蜜がかかって出てくることが多いのに対し、ここでは熱いしょうが汁に鍋からすくった豆腐を浮かべたようなスタイルで供される。
豆乳同様、豆本来の味がしっかりしている豆腐に人によってはピリ辛と感じるかもしれない熱いしょうが汁という取り合わせは、我々がイメージするデザートとは少々異なる味わいだが、特に暑い日の夜にこれを食べると口の中がサッパリとした気分になってくるから不思議だ。
「ブアローイ・ナムキン」は、ブア(ハス)・ローイ(浮かぶ)・ナムキン(ショウガ汁)という意味で、本来はブアローイというと「モチ米の粉を練った小団子を砂糖とココナツクリームで煮たもの」【出典:養徳社「タイ日大辞典」P973】を言うのだが、この店では黒ゴマの餡の入った直径2~3cmほどの団子をゆでて、アツアツのショウガ汁の中に入れたものをこう呼んでいる。
そういった意味では、もしかするとこれも店主のオリジナル・スイーツなのかもしれない。
黒ゴマの餡は、日本のお菓子のようななめらかさはなく多少ボソボソした感じも受けるが、それを包むゴマをまぶしたツルンとした皮との取り合わせを考えると、これもまたいいものだと思う。
なお、このブアローイ・ナムキンは大量に作るのがむずかしいのか、開店直後に行っても少ししかなく売り切れていることが多い。
また、寒い時期の限定商品としてマントムキン(มันต้มขิง)というのがある。
名前の通り、サツマイモ(マン)をしょうが(キン)汁で煮た(トム)もので、熱々のショウガ汁とよく煮込まれたホクホクのサツマイモの取り合わせが日本人にとっては新鮮な味わいで、身体を温めたい時や風邪をひいた時には特にいいだろう。
知人の子供はほかの店の豆乳を飲まなくなった
席に座って豆乳とパートンコーをいただきながら店の様子をながめていると、いつも次から次へと客がひっきりなしにやって来る。
多くはお持ち帰りで、それも豆乳7つにパートンコー15個とか大量にオーダーしている人が目立つ。
おそらく家族みんなの分なのだろう。
そんなこともあってとにかく店の人は忙しそうにしているが、店主の男性を含め店の誰もが(基本は夫婦で店を切り盛りしている)いつ行っても愛想がよく、客とにこやかに会話を交わしながらもパートンコーを揚げたり豆乳を袋に詰める手を止めることはない。
また、時々サンカヤーをサービスしてくれたり、「これ、試しに作ってみたんだけど食べてみて感想を聞かせてくれ」とか言って、開発中の新商品候補(?)を味見させてくれたりもしてくれる。
そんな店のみんなのもてなしの気持ちのようなものが感じられることも、自分にとってはこの店の大きな魅力のひとつとなっている。
自分はかなりの豆乳好きで、これまでにも何ヶ所かお気に入りの店があったのだが、ここの屋台を知って以来ほかの店はまったく利用しなくなってしまった。
自分にとってはそれくらいインパクトのある豆乳であった。
また、何度か友人知人の家に豆乳やパートンコーを持って行ったこともあるがどこでも大評判で、ある家では「うちの息子がこの豆乳を飲んで以来、ほかの店のものを飲まなくなってしまった」というのを聞いたり、「お前がチェンマイにいない間にも飲みたい(食べたい)から、店の場所を教えろ」とか言われ、バイクでわざわざ案内したこともある。
長年チェンマイに関わっているがそのようなことを言われることはめったになく、こうしたことからもこの店に対する評価がわかってもらえるのではないかと思う。
営業時間は18時から22時となっているが、売切れ次第閉店してしまうので、行くなら早めの時間(特に気温が低い日は)がいいと思う。
日曜定休。
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