チェンマイ市内にある、たびたびランチを食べに行くお気に入りの食堂でいつものようにご飯を食べていたら、店にいたお客の女性から「明日、タイヤイ(シャン族)のお祭りがあるんだけど、来ませんか?」と声をかけられた。
店のおばさんはタイヤイ(シャン族)で自分とはかれこれ31年の長い付き合いがあり、食事をするだけでなく話をしたりして長居をすることも多いのだが、声をかけてきた女性はすぐ近所に住むやはりタイヤイ(シャン族)で、自分がよく来ていることを知っていたようだ。
次の日は特に予定もなく、タイヤイ(シャン族)のお祭りなら興味があるので「どんなお祭りですか?」と聞いてみたら、「ちょっと待ってて」と言って招待状のようなものを持って来てくれた。
渡された封筒を開いてみたら、こんなものが入っていた
タイ語で書かれている右側を見てみると、「ポーイサーンローンの伝統習慣タムブン(積徳行)への参集ご招待」と書かれている。
ポーイサーンローンというのは聞いたことがなかったのだが、この女性の説明ではタイヤイ(シャン族)では息子が5歳、7歳、10歳のいずれかの年齢に達すると出家(形式的な?)をする習慣があり、出家する子供のいる家が寺院に集まって集団で得度式を行うのだという。
これは面白そうだ、と思い「ぜひ参加させてください」と答えたら、招待状の左下の数字を指さして「53番だからね。間違えないように」と言われた。
何が53番なのかよくわからなかったのだが、食堂のおばさんが「私も行くから一緒に出かけましょう」というので、それを確かめることもせず、「では明日」と言って別れた。
ちなみに、招待状の左側のミャンマー文字で書かれているのは、タイヤイ(シャン)語だそうだ。
ポーイサーンローンの儀式が行われるのは、市内のやや北にある「ワット・クータオ」という寺院である。
お団子型のチェディ(仏塔)が有名で、たいていのガイドブックで紹介されているが、チェンマイ市内ではワット・パーパオと並ぶ有名なタイヤイ(シャン族)寺院だ。
寺院の門の前から中を見ると、すごいにぎわいだ
一緒に行った食堂のおばさんの後について、寺院の中に入る。
この寺院を特徴づけているお団子型のチェディ(仏塔)
寺院の中は、民族衣装に身を包んだタイヤイ(シャン族)でごったがえしていた
子どもが民族衣装を着ていると、とりわけかわいい
通路のあちらこちらで、民族音楽が奏でられていた(タイトル下の写真も)
民族音楽と呼ぶにしてはあまりに単調だ【動画】
しかも、あちらこちらで演奏しているので、音がまじりあって音楽というよりは騒音である(苦笑)
楽団の脇では踊りに興じているおばさんたちもいた
寺院の中を歩いているとおばさんから「53番を探してちょうだい」と言われる。
招待状にあった、女性から言われた番号だ。
周囲を見回してみると、広さ12~16畳ほどのブースのようなものが並んでおり、その上や横に看板のようなものがついている。
あ~、これが「53番」の意味ね
要は、集団で得度式を行うのだが、それぞれの家のブースがありその数があまりにも多いので、タムブンに来た人がすぐに見つけられるよう番号が割り振られているのだ。
53番はすぐに見つかった。
靴を脱いでブースの中に入ると昨日会った女性がいて、挨拶をするとさっそくタムブン(徳積行)である。
この子が、今日の主役だ
まずは、お金の入った封筒をカンングン(ขันเงิน=托鉢などに使う銀の鉢)に入れると、子どもが白いひもをくれる。
そして右手を出してくるので、そこにサーイシン(สายสิญจน์=聖なる紐)を結ぶ
もうすでにこれだけひもを結ばれて疲れているのか、やる気はなさそうだ(笑)
サイシンが終わると、ひもを結んだ人に対してお経を唱えてくれる
さすがタイの子供、1分近いお経をしっかりと唱えていた。
普段、サーイシン(聖なる紐)を結ぶ儀式はタムブン(徳積行)に行くとお坊さんがこちらにしてくれるのだが、このポーイサーンローンでは、出家する子供に招待された人が巻くという逆の形になっている。
何か理由やいわれがあるのかもしれないが、それを詳細にたずねるほど自分にタイ語能力がないのが残念だった。
ちなみに、隣のブースの子どもはタイヤイ(シャン族)の民族衣装(?)を着ていた
なぜか、化粧をしてマニキュアまで塗っているのだが……
タムブンが終わると、「食事を食べて行ってください」とブースの脇に案内された
あいている席に座ると、早速食事がふるまわれた
豚三枚肉の水煮風
中華料理の醤油煮込み(パロ)とは異なり、スープにはほとんど味がなかった。
発酵したパククムという青菜
発酵した青菜というと、チェンマイではパッカードーン(高菜)が一般的だが、これはそれよりもずっと硬くて小さな菜っ葉で結構苦みがあり、酸味とのからみ具合が何とも言えずパクパクといただいてしまった。
ちなみに、このパククムというのは普通は1年に1度、ソンクラーンの時にだけ食べるのだそうだ。
ラープ・タイヤイ(タイヤイ(シャン族)風の豚肉の唐辛子ハーブ和え)
使われているハーブが普通のラープとは異なるそうだが、自分にはあまり違いがわからなかった。
ヤム・ガイ(鶏肉のスープ)
これは、時々タラート(市場)でも目にすることがある。
トマトの酸味が効いていて、全体的に薄味で日本人に好まれる味だと思う。
ゲーン・キヨウワーン・ガイ(鶏肉のグリーンカレー)
これは完全に一般的なタイ料理だ。
こうしてみると、タイヤイ(シャン族)独自の料理というものもあるが、結構一般的なタイ料理との混合も進んでいるようだ。
ご飯はカーオ・チャーオ(うるち米)
これまでずいぶん色々な場所でタイヤイ(シャン族)料理を食べて来たが、このようなハレの場の食事はほとんど経験がなく、初めて食べたものもあって、自分的にはポーイサーンローンの儀式よりも興味深かった。
力いっぱい食事をいただいて、「いや~、大満足」と思っていたら、さらに食後のスイートが出てきた。
日本の麩菓子とかりんとうの中間のような食感のお菓子だ
砂糖をまぶしただけの素朴なお菓子であったが、軽くて食べやすく、お腹いっぱいだった割にはこれまたパクパクといただいてしまった。
完全に食事を終えて時計を見ると、もうお昼近く。
すっかり太陽は高くなり、酷暑期の暑さが寺院全体を覆っていた。
したたり落ちる汗をタオルでぬぐいながら、女性にお礼を言ってその場をあとにした。
しかし、こういうイベントはやっぱりただ見るだけではなく参加したほうが絶対に面白いよな~
招待してくれた女性と、一緒に行ってくれた食堂のおばさんに感謝、感謝である
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