今や絶滅危惧種の純ネパール式ダルバート
ネパール人の普段の食事は「ダルバート」と呼ばれるカレー定食だ。
名前からもわかる通り本来ならダル(豆のスープ)とバート(ご飯)がメイン、というか下流の庶民なら本当にそれだけで、あとはせいぜいタルカリ(野菜のカレー)とアチャール(漬け物)つけばいいほうだ。
肉などは、宗教的な理由もあるがめったに食べない(食べられない)という人も多い。
また、カトマンズなど都市部以外の地方では炊いた米すら食べることができず、ボジ(干し飯)やディンロー(トウモロコシで作ったそばがきのようなペースト)が主食になることも珍しくない。
自分が住んでいた36年前とかでも、さすがにカトマンズにある食堂(レストラン)だとタルカリ(野菜のカレー)が複数種類になり、付け合わせの生野菜がついたり肉のカレーが食べられたりと多少豪華にはなったが、それでもインドで食べられるようなスパイスが豊富に使われたカレーが何種類も出たりスナックのような付け合わせがあったりするようなことはなく、シンプルで素朴な味つけで、かえってそれが日本人の味覚にはあっていたように思う。
ところが、いつからであろうかネパールで食べられるダルバートのインド化があっという間に進み、パパド(焼いた、もしくは揚げた薄い豆せんべい)やダウ(ヨーグルト)が添えてあるのは当たり前、ほかにもいくつものカレー系のおかずもつくようになり、昔のダルバートを知っている自分のような人間からすると、これはほとんどインド料理のようになってしまっていてダルバートというよりもタリ(インド式のカレー定食)と呼ぶべきもののように思う。
たぶん、サイドディッシュをたくさんつけて豪華に見せることで値段を高くできるのでこのような形にしているのだろうが、今やカトマンズでダルバートと言えばもはやこのようなものがほとんどなので、ネパール人にとってもダルバートと言うともうこういうスタイルしか思い浮かばないのかもしれない。
自分が住んでいた36年前からあるトリベニ
ここで紹介する「トリベニ」というレストランは、今でもそんな純ネパール式の面影を色濃く残したダルバート(ネパールカレー定食)を食べることができる貴重な店だ。
昔ながらのダルバートが食べられる理由のひとつは、店の歴史の長さにあるだろう。
自分がカトマンズ(の南隣の街パタン)に住んでいた1988~89年に頻繁に食べに来ていたので、少なくとも36年の歴史がある。
所在地こそ当時とは異なるものの、ずっと旧王宮とタメルのほぼ中間のチェトラパティというエリアの一角に店を構えている。
当時から「トリベニ」という名前はついていたが、自分が住んでいた頃はこのあたりではワン・アンド・オンリーと言ってもいいような絶対的な存在だったので、「ダルバートを食べにチェトラパティに行こう」と地名を言えば、すなわちそれはこの店のことを指したくらいだ。
チェトラパティのスクエア(広場)から北のタメル方面に向かう道をほんのちょっと進むと左手に細い路地があるのだが、そこに入ってすぐ左手に店はある。
ちなみに、路地の先は行き止まりだ。
合掌する手が描かれ、英語で「welcome」と書いてあるドアから店内に入ろう。
店内はそれほど広くない。
入ってすぐ右手に酒が並んだ棚と冷たい飲み物が入った冷蔵庫が置かれた会計のカウンターがあり、左手に4人がけのテーブルが6つほど並んでいるだけだ。
旅行者相手の店ではないので、店員は席に案内してくれたりはしない。
空いている席に勝手に座ろう。
注文はむずかしくない。肉は鶏かヤギかを選択しよう
店はダルバート(ネパールカレー定食)専門店だと考えてよい。
グーグルマップを見ると、英語併記のメニューがあるが自分は見た(出された)ことがないし、またダルバート以外の料理もあるようだが、食べている人を見たことがないのでやはりここではダルバート一択だと思う。
注文する時は「ダルバート」と言っても通じると思うが「カナ(食事=खाना)」と言うとネパールっぽい。
ただ、これだとダルバートの一番の基本形である肉のつかないカレー定食になってしまうので、ここに肉を追加しよう。
この店に限らず、ダルバートの店に用意されている肉はたいてい鶏肉かヤギ肉で、この店も例外ではない。
鶏肉はククラコマス(कुखुराको मासु)、ヤギ肉はカシコマス(खसीको मासु)とネパール語で言う。
なので、最終的な注文の形は「カナ**(**には数が入る。一人前ならヨタ=एउटा、二人前ならドゥイタ(दुइटा)。一人ならカナヨタと言えばよい)・ククラコマス(鶏肉カレー、ヤギ肉ならカシコマス)・ディノス(ください= दिनोस्)」となる。
素朴であっさりしたダルバートを力いっぱい食べよう
注文を終えてしばらくすると、料理が運ばれてくる。
インド式のタリ(カレー定食)プレートを使う店が最近はすっかり増えている中で、こちらは器も昔ながらのネパール式の姿をとどめている。
ダル(豆のスープ)はネパールで最もオーソドックスな黄色のダルだ
鶏肉のカレー
ヤギ肉のカレー
タルカリ(野菜のカレー)や付け合わせは、日によって異なる。
なので、毎日食べ続けても飽きることがない。
なにせ、この店にはダルバートの定期券のようなもの(ひと月いくらで食べ放題。主に地方から出稼ぎでカトマンズに来た人向け)まであるくらいだ。
カリフラワーのタルカリ
青菜のタルカリ
じゃがいものタルカリ
これらのタルカリを単品でご飯に乗せて食べてもいいのだが、自分のおすすめはまずご飯にダルをかけ、その上からカレーを加えグチャグチャに混ぜて口に運ぶ方法だ。
不思議なことに、ダルとカレーを混ぜるとたとえどんなカレーでも単品で食べるより味に深みが増しスプーンを口に運ぶ手が止まらなくなってしまう。
アチャール(漬け物)もバリエーション豊かだ。
梅のアチャール
発酵タケノコのアチャール
野菜のアチャール(漬物)2種
これらは、ダルとタルカリ(野菜のカレー)にさらに追加する形でほんのちょっと入れるとよい。
生の野菜がついてくるのもネパールならではだ。
タルカリ(野菜のカレー)は無料で追加できるので、遠慮なくおかわりしよう。
ご飯がほしければ「バート・ディノス(ライスください=भातदिनोस्) 」と言えば持って来てくれる。
うんとお腹を空かせて行こう
店は朝から夜までやっているが、自分はたいてい朝食を食べないかすごく少なくして昼前に行くようにしている。
というのも、ここに行くとご飯やタルカリ(野菜のカレー)をおかわりしつつ力いっぱい食べてしまうので、朝にしっかり食べてしまうとなかなかお腹が空いて来ないし、遅いランチとしてしまうとその後でぜんぜんお腹が空かず夕食を食べそこなってしまう、あるいは夜遅くなってから何か食べたくなるからだ。
自分が住んでいるチェンマイ(タイ)は1回あたりの食事の量が少ないので普段からなかなか量が食べられなくなってしまっているのだが、ここだけは後で気持ち悪くなってしまい胃薬のお世話になることがあるくらい、行くと食べるのが止まらなくなってしまう。
昔ながらのダルバート(ネパールカレー定食)が食べられるという意味で自分にとっては貴重な店なのだが、それを除いて単なる食堂としても抜群の味なのでぜひ行ってみてほしいと思う。
カトマンズ市内中心部からだと、タメルやドチェン(フリークストリート)はもちろん、ダルバルマルグ(ナラヤンヒティ旧王宮前通り)を含めどこからでも徒歩でアクセス可能だ。
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