大昔に2年間暮らしていた家を再訪
プロフィールにも書いている通り、自分とカミさんは1988年から2年ほどネパールの首都カトマンズの南隣の街パタンで暮らしていた。
といっても、現在のチェンマイのように自分たちだけで独立して生活していたわけではなく、現地の先住民族であるネワール族の友人の家に居候のような形で住まわせてもらい、日常的に彼らと同じような生活を送っていた。
かの地での生活を終えて東京に戻ってしばらくの間彼らとの直接的な交流は途絶えていたのだが、チェンマイに住むようになってからは距離がグッと近くなったこともあって毎年カトマンズを訪れ旧交を温めている。
今回のカミさんと2人でのネパールの旅でも、やはり同様に昔住んでいた家を再訪し友人たちと再会した。
友人の家はお釈迦様の末裔とも言われる「サキャ」一族(カースト)で先祖代々仏作師(仏像制作)だったのだが、友人は自分で仏像は作らず職人を雇ってできあがったものを香港などの海外に販売することで大成功し、今では海外に不動産をいくつも所有する超リッチマンになっている。
ショールームを兼ねた自宅は、まるで要塞のようだ。
敷地の中にはいくつかの建物があるが、自分たちはこの棟の1階、写真では奥になっている場所に1LDKの居室をわざわざ作ってもらい暮らしていた。
何回行っても懐かしいなあ……
ダイニングキッチンは必ず最上階にある
ネワール族の家では、キッチンは神聖な場所として家族以外の人が入るのを嫌がるため、たいていは最上階に造られている。
それは、伝統的なネワール建築ではない友人の家でも同じだ。
昔であれば、床に直接座り金属製の大きな皿に盛った食事を手で食べるというスタイルだが、この家は生活様式がすっかり欧米化しているので、日本の家とまったく変わらないダイニングキッチンになっている。
しかも、商売をしている関係で人の出入りも多く、ごく普通に食事をふるまったりするのでバカでかいスペースになっている。
写真の奥にキッチンがあるのだが、このくらいの家になると家事の一切をお手伝いさんがやっている。
しかも、カーストの関係でキッチン担当、掃除担当……などと働く人が異なっているのも当たり前だ。
自分が住んでいた当時は5人のお手伝いさんがいて、暮らし始めた頃は誰がどの仕事をしているかわからず指図するのに苦労した記憶がある。
ネワール族の仏教徒はこの国で唯一の大乗仏教徒なので、ダイニングルームに置かれている仏像もタイのものに比べ日本人にとっては親しみを感じるスタイルだ。
自分にとっては「おふくろの味」のダルバート
この家を訪れるのは、もちろん友人たちの顔を見るのが最大の目的なのだが、もうひとつの楽しみは食事をごちそうになることだ。
自分たちは専用のダイニングキッチンを作ってもらってはいたが、食事は友人の家族と一緒にすることのほうが圧倒的に多かった。
なので、この家の食事は自分たちにとってはある意味「おうちご飯」あるいは「おふくろの味」なのだ。
料理を作るのはお手伝いさんなのだが、味のほうは全然変わらない。
ネパールの場合、今働いてるお手伝いさんのお母さんもお婆さんもこの家でお手伝いさんとして働いていた、とかいう可能性もあるので、それほど不思議なことではないのだが。
ネパール人の普段の食事は「ダルバート」と呼ばれるカレー定食だ。
ダル(豆のスープ)とバート(ご飯)という意味で、これがメイン、というか下流の庶民なら本当にそれだけで、あとはせいぜいタルカリ(野菜のカレー)とアチャール(漬け物)つけばいいほうだ。
もちろんこの家くらい裕福になればさまざまなカレーが並ぶのだが、肉や魚は宗教的な理由で食べない(食べられない)という人も多い。
ちなみに、仏教の説話で仏陀が説法の旅に出ていた時に足にトゲが刺さって抜けずに苦しんでいたところニワトリがくちばしで足をつついてトゲを取ってあげた、というのがあり、この国の仏教徒の中にはニワトリの肉を食べない、という人がかなりいる。
自分たちが来るというので、この日はたぶん少し豪華なダルバートが並んでいた。
「ワ~ッこれだ、これ」とカミさんとなかば興奮気味に食事にありつこうと思ったら、友人の奥さんから「ダルバートの前にこれを試してちょうだい」と器を出された。
サツマイモの入った薄塩胡椒味のスープだ。
当然ネパール伝統料理ではなく、インターネットでたまたま見つけたレシピを自分なりにアレンジしてお手伝いさんに作らせたとのこと。
友人の奥さんは、一時期エアロビのインストラクターとしてネパールのテレビに出ていたこともあるくらいこの国では進歩的な女性なのだが、今でもその性格は変わっていないようだ。
スープをいただいていると、パパドも出て来た
パパドは焼いた、もしくは揚げた薄い豆せんべいで元々はインドで食べられてはいたが、ネパールではインド料理店以外で見かけることはほとんどなかった。
が、今では街なかの食事どころでダルバートを頼むとかなりの確率でついて来るくらい一般的になっている。
昔のダルバートを知る自分のような者にとってはインド化の一環とも思われ嘆かわしい限りだが、これも時代なのだろう。
さて、ようやくダルバートにとりかかる。
レンズ豆のダルスープ
チキンカレー
自分が住んでいた頃は鶏肉を買う、というと一羽か半羽しか選べなかったのだが、今ではタイや日本と同じように部位を指定して買うことができる。
ブロイラーなので、地鶏と違って肉付きもいいね。
青菜のタルカリ
発酵したタケノコのタルカリ
発酵したタケノコはチェンマイ(タイ)でもよく食べられているがネパールでも同様で、朝に路上に出るバザール(市場)とかでもバケツに入れられて売っていたりする。
大根のアチャール(漬け物)
大根はカレーでもよく使われるが、インドカレーと違って油をほとんど使わずスパイスの種類も少なくて素朴な風味で、水分の多いシャバシャバなスープ風のネパールカレーには実によく合う野菜だ。
ご飯は、インドのカーオホームマリ(ジャスミン米、香り米)と呼んでもいいような国を代表するバスマティ米だ。
タイ米よりもさらに細長いが、香りはジャスミン米ほど強くない。
これらを皿に取り分けて、いただきま~す
ダルスープはまだかけていないけどね。
チェンマイ(タイ)に住んでいると1回の食事の量が少なくなっているので、ネパールに来るといつも「量が多いな~」と感じるのだが、この友人の家のダルバートは「おふくろの味」なので、そんなことも忘れてご飯もおかずもおかわりしてしまった。
ネパールと言えば紅茶の産地として知られており、昔だったらどこの家に行ってもまずはチヤ(チャイ=ミルクティー)が出て来たのだが、進歩的なこの家ではエスプレッソマシンで淹れたコーヒーが出て来た。
チェンマイ(タイ)ほどではないにしろ、カトマンズ盆地でもカフェは結構目にするようになっており、自分の友人たちもチヤよりはコーヒーを飲むようになっていて時の流れを感じる。
懐かしい味のダルバートを食べ、友人との楽しい話も尽きずあっという間に時間は過ぎていった。
「また来年ネパールに来たら、今度はパタンに何日か泊まって毎日このダルバートを食べに来たいなあ」と言ったら、友人も奥さんも「もちろん、大歓迎だよ。部屋が空いてたらウチに泊まったら?」と言ってくれた。
何だかんだでもう30年以上の付き合いの友人たちとは、国や言葉の壁を簡単に越えて深い絆のようなもので結ばれていることを再確認したこの日であった。
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