当地でも貴重なラーンナーの壁画が残る寺院
チェンマイは、13世紀末にマンラーイ王によってラーンナー王国の都として建設された。
上座部仏教に根差した独自の美しい文化を18世紀にチャクリー(バンコク)王朝に服属するまで築いてきたが、それは同時にビルマ(ミャンマー)との戦いの歴史でもあった。
とりわけ西暦1558年にペグー王国との戦いで敗れ陥落して以降のおよそ200年ほどはその富は食い物にされ、数十年にわたって誰も人が住まない廃墟となった時期もあったくらいだ。
その過程で多くの文化遺産が破壊されたり打ち捨てられたりして、チェンマイにはラーンナー王国時代の文化を完全にあるいは大規模に残している場所というのはそれほど多くはない。
そんな中にあって、今回紹介する寺院「ワットブワッククロックルワン」はラーンナー初期の仏画が本堂内の壁一面に残っている貴重な寺院だ。
東部郊外の古い道沿いに建つ
ワットブワッククロックルワンは、チェンマイ中心部から少し東に行った郊外にある。
目印になるのは、高級リゾートホテルの「ダラデヴィ」だ(火災のため現在休業中)。
チェンマイ市内からだとチャルンムアン通り(国道1006号線)をサンカムペーン方面に東進、スーパーハイウェイを通過して1kmちょっと進むと道路脇左手に「Dhara Dhevi Chiang Mai→」と書かれた道路標識が出ているのでそれに従って右折する。
ソイ(路地)に入って100mほど進んだ右手に寺院がある。

門をくぐると、正面にウィハーン(本堂)が見える。

グーグルマップを引きで見てみると、現在はスーパーハイウェイをはじめとする大通りができてしまい分断されてはいるが、寺院の前の道はお濠に囲まれた旧市街の北東からラムプーン方面へと続いておりかなり古くから存在していると思われる。
ラーンナー時代のこの寺院は、もしかしたら道しるべのような役割も果たしていたのかもしれない。
昔の生活風景も描かれた壁画をじっくり見てみよう
寺院建立の正確な時期は文献、伝説、年代記に記録されておらずわからない。
非常に広い敷地を有しておりいつ行っても人が少なく落ち着いた雰囲気だが、見るべきものは正直言ってウィハーン(本堂)だけだ。

ウィハーン(本堂)は伝統的なランナー様式の箱型をしている。
入口両脇には大きなナーガ(仏法や仏教徒を守護する竜王)が鎮座し、上部にはアーチ型の鳥の翼と雲の上のパノムナン神のイメージが装飾されている。
このナーガの口は、オウムのくちばしのように尖った非常に珍しい形をしている。

また柱には金で彫刻が施され欄干は仏塔の形にデザインされている。
本堂自体はラーンナー王国第9代王チャオノックの治世中に何度か、また1925年にも大規模な改修が行われている。
さらに1955年にも寺院の床が敷き直され内部の構造も大幅に修復されているため、ラーンナー王国初期の建立当時とはおそらくかなりデザインなどは違っていると思われる。
本堂内は、非常に歴史を感じさせるたたずまいだ。

中に入ると両脇の壁には仏画がずらりと続いてる。

タイ北部の方言で「フープテム」と呼ばれる壁画は、村人たちからは「プラコーンコートプロートラック」という愛称で親しまれている。
タイヤイ(シャン族)の画家によって描かれた壁画は5つのジャータカ(本生譚=お釈迦様が人間や動物として生きていた前世の物語)、すなわちテミヤスワンナサムジャータカ、ネミラージジャータカ、マホソットジャータカ、ビドゥラジャータカ、そしてべッサンタラジャータカが描かれている。
また、当時ランナー王国に住んでいたタイヤイ(シャン族)、タイルー族、中国人などの服装や生活など人々の暮らしぶりも鮮やかな色彩で描かれている。
壁画に描かれた建物などは「カラカ」と呼ばれるタイヤイ(シャン)とミャンマーが結合した様式になっており、全体の作風はナーンの寺院ワットプーミンにある有名な「愛をささやく男女」にも共通するものがある。
ラーンナーの貴重な民俗芸術でもあるこれらの壁画は、1980年にタイ国美術局に登録され2010年に修復が行われた。
それ以前にもケーオナワラット王やパーキナイ王の時代などに修復が行われた記録が残っており、ラーンナーの王族は熱心に修復を支援していたようだ。










かなり傷んでしまっている部分もあるが、細部まで丁寧に描かれた仏画はどれも見ごたえたっぷりだ。
時間をかけてじっくり見てみよう。


本堂正面に鎮座するご本尊は顔が典型的なラーンナー様式で、少しコミカルな感じにも見える。


本堂の周りにはウボソット(仏堂)やチェディ(仏塔)などもあるが、特に興味を引くようなものはない。



寺院内は広いので、本堂を見終わったら散策するのもいいだろう。
ボーサーンやサンカムペーンとセットで訪れるのもよい
今回紹介した、チェンマイの東部やや郊外にあるラーンナー王国初期の仏画が本堂内の壁一面に残る貴重な寺院「ワットブワッククロックルワン」。
近くに他の見どころもなく訪れるとしたらわざわざという感じになるかもしれないが、さらに東に進むとサーペーパー(紙製品)で有名なみやげ物店が立ち並ぶボーサーンやタイ系諸民族の集落が点在するサンカムペーンがあるのでそれらと組み合わせると効率よく観光できるだろう。
お濠の中の旧市街にある有名寺院のようなにぎわいはないがこれだけの歴史的価値のある壁画を見ることのできる場所はめったになく、村の人たちも毎朝掃除を欠かさないなど大切している寺院なのでぜひ訪れてみてほしい。
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