ココナツミルク入り中華麺だけがカオソーイじゃない
「カオソーイ」は言わずと知れたチェンマイ名物で本場のを食べるのを楽しみにやって来る人も珍しくないが、一口にカオソーイと言ってもすごい数のバリエーションがあるのはあまり知られていないかもしれない。
そもそも名前が「カオ(ข้าว)=米」、「ソーイ(ซอย)=細かく刻む、引き裂く」で、タイ日辞典(1990年改訂版)には「ウルチ米の粉で作ったウドンで汁にして食べる」とも書かれていて、本来は今最も一般的な平打ちの中華麺でないことも想像がつく。
実際チェンマイにも、中華麺ではなく溶いた米粉を薄く伸ばして蒸したもはや麺ですらないもの(カオソーイノーイ)や汁なし(カオソーイヘーン)といった変わり種を食べることのできる店もある。
そして、こうしたことを踏まえると「ミャンマー発祥」としばしば言われることにも自分は違和感を覚えてしまう。
個人的にはチンホー(隊商ムスリム雲南人)が元々食べていた米麺に、移動の過程でその土地土地の食材や味を取り入れつつ総称として「カオソーイ」と呼んだのではないだろうかと想像している。
そうでなければ、同じ名前なのに共通点をほとんど見つけることができないカオソーイというものは存在しないのではないだろうか。
余談はさておき、そんなバリエーションが数えきれないほどあるカオソーイでも自分が住んでいるチェンマイではお目にかかったことのないものがある。
それが、西双版納のタイルー族式カオソーイだ。
これが食べられるのは、チェンマイから車で4時間半ほどのところにあるタイ最北部、メコン川沿いのチェンラーイ県チェンコーン。
ラオスとの国境のメコン川に橋がかかったことで気軽に行き来できるようになり、多くの旅行者が通過する街だ。
店の名前はズバリ「パーオーンカオソーイシップソーンパンナー(ป้าอ่อนข้าวซอยสิบสองปันนา=オーンおばさんの西双版納式カオソーイ)」。
この街を日中訪れる機会があればぜひ立ち寄ってほしい店だ。
チェンコーン市内だが目立たたない店構え
「パーオーンカオソーイシップソーンパンナー」はチェンコーンの街のほぼ中心部だが、メインの国道1020号線沿いではなく1本メコン川と反対方向(南)に入った道沿いにある。
自分のようにラオスとの国境橋方面から自動車を運転してチェンコーンの街に入った場合、右手にチェンコーン郵便局を見ながらすぐの路地(ソイ6)を左折する。
道は車がようやくすれ違える程度の狭さだが、そのまま200mほど進んだところにある十字路の右向かい角に店はある。
かなり年季の入った古い建物で、道路沿いには大きな植木鉢がたくさん置かれていてパッと見にはここが飲食店だということにも気がつかないかもしれない。
十字路の角に置かれている、大きな標識を目印にするといいかも。
ここには「パーオーン到着 チェンコーン0km チェンセーン54km」と書かれている。
余談だが、店の前の大通りと並行に走っている道はたぶん古~い街道なのだと思う。
この道はチェンコーン市内中心部の入口の信号(角に寺院がある)とチェンセーンへと続く国道1290号線との間に続いているのだが、途中ものすごく古い木造住居や商店などがポツリポツリと残っているからだ。
もし店に来るのなら、この道をなるべく長く通ったほうが昔の街の雰囲気とかがわかっていいかも。
店の入口には、目立たない看板がかけられている。
「オーンおばさんの店 シップソーンパンナーの足跡をたどったカオソーイ」と書かれている。
これは期待してしまうではないか。
店内はチェンマイでも見かける、少し大型の食堂風の造りになっている。
キッチンはシンプルだが、基本的にここではカオソーイ一択(メニューにはガパオとかもある)なのでこれで十分用は足りるのだろう。
店の一角では、チェンコーンのみやげ物が売られている。
織物はチェンコーンとチェンセーンの中間ほどのメコン川沿いにあるタイルー族の村「バーンハートバーイ」で作られたものだ。
現在この手の布製品は織り手が高齢化しどんどん少なくなる一方、若者は織物など興味がなく技術継承が進まないため数が極端に減っておりいずれ入手困難になると思われるので、興味のある人はぜひ見てみよう。
西双版納式肉味噌カオソーイとおにぎりをセットで
メニューは店内の何か所かに掲げられている。
ガパオやカーオパット(炒飯)などもあるが、ここに来てカオソーイ以外のものを食べるのはまったく無意味だ。
写真以外のメニューボードには、最初からカオソーイしか載っていないものもある。
ボードとは別に、外国人用と思われる英語併記の小さなメニューも用意されているので店の人が気づけばそちらを持って来てもらえるかも。
店の人が英語を喋れるかどうかはわからないが、注文する程度なら問題なく通じると思う。
カオソーイは以下の5種類から選べる。
*タムマダー(ธรรมดา。普通=追加具材なし)
*ピセートルークチン(พิเศษลูกชิ้น。つみれ追加)
*ピセートカイ(พิเศษไข่。ゆで卵追加)
*ピセートカイルークチン(พิเศษไข่ลูกชิ้น。ゆで卵とつみれ追加)
*ピセートカイルークチンムー(พิเศษไข่ลูกชิ้นหมู。ゆで卵、つみれと豚肉追加)
理由はわからないが、豚肉単独での追加はできない。
せっかくここまで来たので、自分はいつも少し奮発(というような値段ではない)してゆで卵のつみれを追加したものをオーダーしている。
日本語に意訳したら「西双版納タイルー族式肉味噌米麺」になるだろうか。
正式な名前は「カーオソーイナムナー」と言うそうだ。
チェンマイなどで一般的に食べられているカオソーイとはまず麺が違う。
冒頭に記した通り、平打ちの中華(小麦)麺ではなくやや幅広(センヤイほどではない)の米麺が使われている。
いわゆるクエティオとも少し食感が異なり、もしかしたらラオスの米麺(センピアック)に近いのかも。
「麺はコシが命」の真逆を行くような食感だ。
そして、スープにココナツミルクが使われていない。
スープそのものには味があまりついておらず、上に乗っている肉味噌をほぐしてスープと混ぜそれに麺をからませて食べるというスタイルだ。
その肉味噌。
見た目はナムプリックオーン(ミートソース風唐辛子味噌)に似ているが実際はそれほど濃い味がついているわけではなく、どちらかというと肉の元々の味を生かしたスタイルだ。
少し甘さも感じられ、これがスープに混ぜると効いて来る。
ココナツミルクの入ったカオソーイは自分にはくどくてチェンマイでも普段から食べることがないのだが、このスタイルなら飽きることもない。
そして、カオソーイと一緒にぜひ味わってほしいのがカーオギヨウ(タイルー族式おにぎり)だ。
カーオギヨウはタイヤイ(シャン族)をはじめとするタイ系諸民族の間で広く食べられている米に豚の血と脂身を混ぜてバナナの葉に包んで蒸したもので、チェンマイでも普通に売られている。
たいていのカーオギヨウは豚血や脂身でネットリした食感なのだが、ここのはなぜかパラッとした感じが強いのが特徴だ。
血の味とかはまったくせず「ちょっと柔らかいおにぎり(握ってないけど)」と言えば近いだろうか。
カオソーイとセットでいただくとちょうどお腹いっぱいになる。
なおカーオギヨウはメニューに載っておらずキッチンに置かれているだけなので、料理の注文時にはそのあたりをチェックしてみよう。
国境越えてラオスを行き来する人はぜひ食べ比べを
今回紹介した、タイ最北部メコン川沿いの街チェンコーンにある「パーオーンカオソーイシップソーンパンナー」。
残念なことに自分はまだシップソーンパンナー(西双版納)には行ったことがないので、本場(?)のものとの違いなどはわからない。
ただ、それを知らなくても普通にチェンマイ(タイ)で食べることのできるカオソーイとはまったく違うもので、少なくともタイ国内では簡単に食べられるものではない。
ラオスに向かう/から来た人は食べ比べを、そうでない自分のような人は「こんなカーオソイもあるのか」ということで貴重な食体験になると思うので、チェンコーンに来たらぜひ立ち寄ってほしい。
チェンコーンで泊まるなら客室から雄大なメコン川が一望の中級ホテル「フォーチューンリバービューチェンコーン」がおすすめ
ラオスと行き来するためにしかたなく一泊するようなバックパッカーなら街にある安いゲストハウスとかがいいと思うが、せっかくメコン川沿いの街チェンコーンに来たのなら時間によって変わりゆく川の様子を一日中眺めることのできるリゾート風のホテルもおすすめだ。
「フォーチューンリバービューチェンコーン」は、まさにメコン川を眺めるためのホテル、と言ってもいいくらいのロケーションで設備的にも普通の外国人ツーリストが十分満足できるだけのレベルを兼ね備えていて、おすすめだ。
ローカルの店と比べても大して高くありません
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