自分は1988年にチェンマイを初めて旅して一目ぼれ、リピーターとなって年に数回旅行ベースでの訪問を繰り返したのち2013年にリタイヤしてこちらに移り住んだのだが、旅行者時代からなぜか知り合う人はタイヤイ(シャン族)が多かった。
彼らの多くはチェンマイ出身ではなく、地方部やミャンマーからの出稼ぎでタイ人がやりたがらないような3K労働に従事し、この国を底辺から支えている存在だ。
そんな彼らと付き合う中で、一人のタイヤイ(シャン族)の実家があるタチレク(メーサーイの国境を越えた向こう側のミャンマーの街)郊外の村に出入りするようになり、その人を通じて日本の古着などを寄贈していた。
しかし、2020年のコロナ禍発生からクーデター、そして事実上の内戦とミャンマーの混乱が続く中でタチレクの国境は閉鎖され、自分は向こうに行くことができなくなっている(国境を越えられるのはタイとミャンマーの国民のみ)。
そのため今はメーサーイの知り合いの家に寄贈する古着などの物品を持って行き、そこから先は誰か国境を越える人に託すようにしている。
今回も日本で友人が集めてくれた寄贈品とともに一時帰国からチェンマイに戻り、生活も落ち着いたのでメーサーイまでドライブがてら持って行くことにした。
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知り合いの家は、メーサーイから車で10分ほどの郊外にある。

ごくごく普通の一軒家だが、面白いのはこの家が建っている土地は王室の所有でわずかな(年に数百バーツらしい)地代を払ってここに住んでいるということだ。
詳しくは知らないが、知り合いも元々はミャンマー側に住んでいたらしいのでそういう境遇のタイヤイ(シャン族)に王室から何かの施しがあってここに住めるようになったのかもしれない。
家の敷地は60~70坪ほどだろうか、今は家を出てしまったが娘が2人住んでいたくらいなので狭いながらも部屋数はそこそこある。

仏間には日本で言うところの仏壇が置かれている。

中央にご本尊が鎮座しバナナが供えられ、右下には肉親の遺影だろうかクルーバー(聖人、高僧)の写真ともに飾られている。
自分がメーサーイに来ると、時期によってはこの家に泊めてもらう。
というのも、この家にはエアコンはもちろんシャワーもなくバスルームの水槽からひしゃくで水をすくって浴びなければならないからだ。
暑くてもダメだし、寒くてもダメなのよね……
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メーサーイはタイではあるものの住民の多くはタイヤイ(シャン族)で、タラート(市場)などを見てもチェンマイとは売られているものがずいぶん違う。
それは特に食べ物に顕著に表れており、自分がメーサーイに彼らをたずねるのもタイヤイ(シャン族)料理が大きな楽しみになっているからだ。
チェンマイからメーサーイへは途中寄り道せず行けばだいたい4時間ちょっと、朝出るとちょうどお昼時に到着する。
今回も順調に知り合いの家に着き挨拶などを済ませると、早速カントーク(丸い脚つきお膳)に乗せられて食事が運ばれて来た。

彼らが主食のように食べているカオフン(ข้าวฟืน)だ。
カオフンは豆から作ったペーストのようなもの(カオフンローン(ウン)=熱い(暖かい)カオフン)で、そのまま麺の上にかけたり葛餅のように固めて(カオフンイェン=冷たいカオフン)食べる。
一番ポピュラーなのはひよこ豆を使った黄色っぽいカオフンで、メーサーイのタラート(市場)に行くと洗面器に入ったものが大量に売られている。

が、どうやら今回はそれ以外の材料から作ったものを出してくれるようだ。
これは「カオフントゥア」と言うらしい。

これは落花生から作ったカオフンで、紫色をしている。
千切りのキャベツを乗せ、唐辛子味噌のようなタレをかけて(つけて)食べる。
タレは見た目ほど辛くはなくカオフン自体も味はそれほどしないので、さらに醤油をかけて食べるとおいしくなる。

メーサーイまで来ると、出て来る醤油もミャンマー製だ。
日本の醤油ほど塩辛くないので、普通にかけ回してもぜんぜんイケる。
そして、もう一種類は「カオヨンフアイ」という名前のもの。

カオフンとは違う料理になるらしい。
使っているのは「トゥアリン」という豆だそうで、カオフンに比べるとずっとゆるくてプルンプルンしている。
食感としてはババロアをさらに柔らかくした感じだ。
何かの葉っぱも混じっているようだ。
こちらもあまり味はしないので、カオフントゥアと同じようにタレをつけて食べた。

一緒に出て来たのは「カオケープトゥアノイ」という揚げ豆せんべい。

見た目は、チェンマイで「ベーチョー」という名前で雲南系の市場などで売られているものとまったく一緒だ。
以前ベーチョーもタイヤイ(シャン族)語だと教えられたが一口に「タイヤイ(シャン族)」と言っても彼らの居住地域はすごく広くて、例えばメーサーイとメーホンソーンのタイヤイ(シャン族)とでは会話が通じないことがあるらしいので、同じ料理をぜんぜん違う名前で呼んでいても不思議ではない。
あるいは、何か材料や作り方違う(だから別の名前で呼ばれている)可能性もあるがそこまで詳しいことはわからない。
スナックのようにそのまま食べたり、カオフンの上に散らしたりするのが一般的だが、これも油っこい以外はあまり味はない。
カオケープトゥアノイに入っている豆は「トゥアガラペー」という名前だそう。

ひよこ豆よりもずっと小さく(グリーンピースよりも小さい)、触った感触はカチカチに硬かった。
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チェンマイに暮らして長い間タイヤイ(シャン族)と付き合っていると、彼らの食生活の中心が「豆」であることを実感する。
タイヤイ(シャン族)が住んでいる地域(ミャンマーのシャン州からタイのメーホンソーン、チェンマイ、チェンラーイ各県の一部にかけて)が、丘陵地もしくは小山が連なるような起伏に富む場所で基本的に水に恵まれないことが影響しているのかもしれない。
彼らの料理の味つけの基本がトゥアナウと呼ばれるタイヤイ(シャン族)納豆だったり、日本と同じような豆腐を日常的に食べる(揚げることが多い)のもその証しだろう。
食生活が似ているからではないと思うが、いわゆる一般的なタイ人よりもメンタリティは日本人に近く感じられる彼らとの付き合いをこれからも大切にしていきたいと思う。



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