コムローイ(熱気球)揚げはローイクラトンとは無関係
2023年は公式では11月27~28日の2日間がローイクラトンの祭り期間であった。
ローイ(ลอย=浮かべる)クラトン(กระทง=灯籠)の名前の通り日本の灯籠流しのようなものだが、スコータイ時代に始まった川の恵みへの感謝を捧げ自らの穢れを削ぐため花や線香、ろうそくなどで飾ったクラトン(灯籠)を川に流す、ソンクラーン(タイ正月=水かけ祭り)と並ぶタイを代表するお祭りだ。
起源は白いカラスの雌雄とその五つの卵にまつわるインドの民話に発し(タイ日大辞典P1576)、「パウティアンレンファイ(ロウソクに火をつけて遊ぶ)」としてタイに定着していたが、ラームカムヘーン王の時代にパーリ語の「ピティーチョーンプリーヤン」あるいは「ガーンローイプラプラティープ」と呼ぶようになり祭りとして定着したようだ。
ラームカムヘーン王の1番目の碑文にも、スコータイの都ではローソクに火をつける遊びが一番大きなイベントだったということを示す証拠が刻まれておりこれがローイクラトンであったはずだと考えられている。
ローイクラトンの祭りの行事は地域によって特徴や独自性があり、自分が暮らしているチェンマイでは「イーペン」という呼称が一般的だ。
陰暦の「イー月」の満月の日に行うタムブン(徳積行)を意味し、イー月はラーンナー式の数え方で旧暦では12月にあたることから西暦の11月に行われることが多い。
チェンマイのローイクラトン(イーペン)を近年特に有名にしたのは、燈籠流しではなくコムローイ(熱気球)揚げがディズニー映画「塔の上のラプンツェル」でのランタンをあげるシーンのモデルとして使われたからで、それ以降祭り期間中はホテルはもちろんモーテル(ラブホテル)まで国内外からやってきた観光客で満室、宿泊場所にあぶれたタイ人はお寺に泊ったりするなどものすごいことになる。
しかし、多くの観光客が誤解しているが「コムローイ(熱気球)揚げはチェンマイのローイクラトン(イーペン)の象徴」と言われること自体が大きな間違いで、この行為はローイクラトン(イーペン)とは何の関係もなくたかだかこの数10年の間に行われるようになったに過ぎず、そのことについてはタイの学者による論文も発表されている。
確かに自分が初めてローイクラトン(イーペン)を体験した1993年でも、ゼロではなかったがコムローイ(熱気球)揚げはほとんど行われていなかったと記憶している。
なお、やたらと日本でこのローイクラトン(イーペン)のコムローイ(熱気球)揚げが人気なのは某宗教団体がこのイベントに目をつけ祭りとはまったく関係ない郊外の野原のような場所でコムローイ(熱気球)揚げをするイベントを旅行商品として仕込み、信者ツアーで日本人を大量に動員し彼ら彼女らが布教活動の一環として拡散したのがきっかけだ。
また、近年は落下した火の消えたコムローイ(熱気球)がゴミとして大量に放置されたり、まだ火がついたままのコムローイが民家や商店の屋根に落ちて火事を引き起こすなど、住民からは正直言ってかなり迷惑行為に近い扱いを受けているのが実態だ。
なので自分は例年コムローイ(熱気球)揚げは一切せず、またパレードなどでソンクラーン(水かけ祭り)ほどではないにしろただの乱痴気騒ぎに成り下がっている市内中心部には近づかず郊外でクラトン(灯籠)を川に流すだけになっていた。
今年のローイクラトン(イーペン)も同じようにカミさんと静かに過ごそうと考えていたのだが、祭りの少し前にお会いしたお友達が「せっかくご夫婦でチェンマイにいるのだから、少し違った楽しみ方をしてみてください」と言ってピン川沿いのレストランを予約してくださった。
お友達にはいくら感謝してもしきれない(自分ではこういう過ごし方は想像もしていなかったので)が、ありがたくお受けして11月27日の満月前日のローイクラトンの小祭(チェンマイではกระทงน้อย=クラトンノーイと呼ぶ)の夜に夫婦でご招待を受けた。
ピン川に浮かんだいかだレストラン「フアンボーラーン」
お友達が予約してくださったのは、市内中心部からやや南のピン川沿いにある「フアンボーラーン」という店だ。
フアン(เฮือน)はチェンマイ語で「家」を、ボーラーン(โบราณ)は「昔の」という意味で英語では「アンティークハウス」と訳されている。昔のチェンマイを知っている人は名前を聞いてピンと来たかもしれないが、店はかつて市内中心部のダイヤモンドリバーサイドホテルにあって当時は文字通り古い家を改造してレストランとしていたのだが、かなり以前に建物がなくなり今の場所に引っ越した。
看板にも書いてある通り、今はレストランというよりもクエティオ(米麺)がメインの店になっているようだ。
入口にいたスタッフにお友達から渡された予約票を見せると「どうぞこちらへ」と言ってエスコートしてくれた。
店は、ピン川に浮かべたいかだのようなものを客席にしているようだ
客席は川岸に面して細長く取られているがテーブルはかなりの数がありそうで、岸のほうにも立派な建物があるので双方合わせればかなりの規模になりそうだ。
もちろん席はすべて予約済みだ。
タイ人カップルやファミリーもいればファラン(欧米人)のいかにも旅行者という感じのグループもいる。
自分たちは、ピン川に面した店で一番いい席に案内された
すでにたくさんのクラトン(灯籠)がピン川を漂っている。
席について周りを見回すと、お揃いのポロシャツを着た店員のほかに経営者一家と思われる3人も店に出て指示を出したり料理を運んだりしている。
まさに書き入れ時だ。
そんな店内をボ~ッと眺めていたら、店員がやって来て「少ししたら料理を持って来ますね」と言った。
さすがに今日みたいな日はセットメニューのみでの提供となっているのだろう。
予約してくれたお友達からそれは聞いていて、セットの内容も画像で送ってもらっていたのであとはビール(3本が料理に含まれている)を飲みながら料理が来るのを待つだけだ。
食べ切れないほどの料理が次から次へと
川の様子などを眺めながらカミさんとビールを飲みながら話をしていると、料理が運ばれて来た。
「タイあるある」でこの手のセットメニューはかなりの高級店でも料理の出てくる順番がメチャクチャなことが多く、今回もたぶんそうなるだろうと予想していたが一番最初にフルーツが出て来たのにはさすがにびっくりした。
しかも、2人だとこれだけでお腹がいっぱいになりそうな量だ
この後かなりの種類の料理が出て来ることがわかっていたのでこれには一切手をつけなかったのだが、結局食事が終わったらお腹がいっぱいでとても食べられずこのままお持ち帰りにしてもらった。
いきなりフルーツで、いったいどういう順番で料理が出て来るのかちょっと怖かったのだが後は意外にまともにテーブルに並べられた。
ただ、どれもすごく量が多くて(自分たちは2人だったがたぶん4人分とかだと思う)とても食べ切れなかったが。
ブロッコリーとエビの炒めもの
鶏軟骨の「天国揚げ」
ルビーフィッシュのハーブ揚げ
メインは何とムーチュム!
そして肉はこの量で2人前
当然のことながらご飯は絶対に欠かせない
コースにはこのほかにビール(大)3本、飲料水(大)2本、氷もついていた。
これだけ料理が並ぶとテーブル上はこの状態
カミさんと2人でがんばったけど、だいたい半分くらい食べたらお腹いっぱいになってしまった(フルーツは一切手をつけず)。
最後にクラトン(灯籠)をピン川に流す
予約された席がピン川に面していたので、食事しながらピン川を流れるクラトン(灯籠)や空に舞うコムローイ(熱気球)を眺めてローイクラトン(イーペン)の夜を楽しんだ。
本当は市内でのコムローイ(熱気球)揚げは禁止されているのだが、一部不届き者がいるのだろう。
実際、今回の祭り期間中コムローイ(熱気球)がワローロット市場脇の商店街に落ちてかなり大きな火事になったのだが。
こういう位置からローイクラトン(イーペン)のピン川を見たのは初めてだが、クラトン(灯籠)は火の消えてしまったものも多く、思ったよりも美しくはなかった。
クラトン(灯籠)には小銭を乗せて川に浮かべる人も多いため、それを取ろうと川に入って流れて来るクラトン(灯籠)をキャッチする人も必ずいる。
上空にもコムローイ(熱気球)がいくつも揚がった(何度も言うけど禁止だからね)
今回のこのレストラン「フワンペン」のローイクラトンセットメニュー、当然だがクラトン(灯籠)も2個含まれている。
食事も終わってお腹が苦しくて動けないタイミングで、お店の人が「どうぞ」とクラトン(灯籠)をテーブルに持って来てくれた。
レストランのいかだのさらに先の下流にクラトン(灯籠)をを流す場所を作ってあるというので、客席のいかだからいったん川岸に移りずずっと歩いていくと、確かにあった。
自分とカミさんもここからクラトン(灯籠)を流した
クラトン(灯籠)は上流から流れて来たほかのものに混じってゆっくりとピン川を下って行った。
チェンマイでローイクラトン(イーペン)を過ごすのはもう何回目か、正直まったくおぼえていないのだが、今回のようにピン川沿いのレストランで食事を楽しみながらクラトン(灯籠)を流す、という経験は初めてだった。
これだとピン川のクラトン(灯籠)や上空のコムローイ(熱気球)をゆっくり眺めることができるし、何より人混みに関係なくクラトン(灯籠)を流すことができる。
パレードとかにぎやかなのが好きな人にはどうかと思うけど、自分たち夫婦のように基本的に人の多いところが嫌いな人にとってはチェンマイでのローイクラトン(イーペン)の過ごし方としてはある意味理想的だったかもしれない。
今回レストランを予約してくださったお友達には感謝、感謝だ。
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