ハリプンチャイ王国時代の戦死した象や馬の墓塔
チェンマイの南30kmほどのところにある、かつてはモン族のハリプンチャイ王国が栄えたチェンマイより古い歴史を持つ古都ラムプーン。
外国人旅行者には日帰りの観光スポットとして人気の街だが、多くの人は一番有名なワット(寺院)プラタートハリプンチャイにお参りした後は周辺の寺院や博物館を見て終わってしまう。
だがこの街の見どころは、お濠の中の旧市街だけでなく少し離れた場所にも多く存在している。
それは例えばハリプンチャイ王国を建国したチャーマテウィー女王の遺骨を納めた寺院やタイの10大仏教建築のひとつに讃えらえる堂のある寺院だったりするのだが、中でも特にユニークでぜひ訪れてほしいと個人的に思うのが今回紹介する「クーチャーンクーマー」だ。
クー(กู่)は塔、チャーン(ช้าง)は象、マー(ม้า)は馬で、文字通り「象の塔・馬の塔」という意味になる。
塔といっても普通のタイの寺院にあるようないわゆるチェディ(เจดีย์=仏塔)ではなく、王国のチャーマテウィー女王が戦争で死んだ王家の象や馬を埋葬した墓の上に建てたもので、墓塔あるいは供養塔と言ったほうがふさわしいかも。
なので、多くのタイ語の説明書きでは「เจดีย์(チェディ=仏塔)」となっているもののここでは「墓塔」という表現を使うことにする。

旧市街から2km。徒歩では少し辛い
「クーチャーンクーマー」は、市内中心部の街最大の見どころワット(寺院)プラタートハリプンチャイからだと北東に約2km離れている。
そちらを観光してから行こうとすると、歩けない距離ではないが往復となるとちょっと辛い。
なので、公共交通機関を利用してチェンマイから来た人はまずは市内中心部のスポットを巡り、最後にここまで歩いてきて見学(お詣り)したら5~6分歩けば国道106号(チェンマイ-ラムプーン通り)に出るので、そこでチェンマイ方面に向かうソンテウ(乗り合いピックアップトラック)やロットトゥー(乗り合いワンボックスカー)を拾って帰るのがいいと思う。
ワット(寺院)プラタートハリプンチャイからの行き方としては、東側のクアン川沿いに走る道をチェンマイ方向に北上し400mほど行くと右手に橋が見えるY字路のような交差点に出るが、そこを斜め右方向に進む。
クアン川右岸を道は狭くなりつつも続き、途中ホテルやシルク工房兼店舗などを通り過ぎて700~800m進むと右手に橋がかかった大きめの十字路に着くがそこに案内看板が出ている。
十字路からさらに300~400m進むと「←Ku Chang Ku Ma」という看板の立ったT字路に着くのでそこを左折する。

左折したソイ(路地)は右手が古い鉄道車両などが置かれたきれいな公園になっているので見やりながらまっすぐ200mほど行くとクーチャーンクーマーがある。
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チェンマイからレンタルバイクなどを使って自前の足で来る場合は、ここにまず立ち寄ってから市内に向かうほうが無駄がなくてよい。
国道106号線をひたすら進みラムプーン駅に向かう道とのT字路(駅への英語看板あり)を過ぎてさらに進むと左手に大きな学校(チャッカムカナートンスクール)がある。
その学校の敷地が終わる角のところに、小さな標識が出ているのでここを左折する。

2つの標識が並んでいてしかもぜんぜん距離が違うのだが、白い大きな看板のほうが正しい。
そこからはひたすら路地(ソイチャッカム)をまっすぐ進み(途中の大きな十字路に案内看板あり)、700~800m行った突きあたり右手がクーチャーンクーマーだ。
墓塔の道をはさんだ向かい側には広い駐車場があり、参拝客相手の移動アイスクリーム販売などが出ていることが多い。
クーチャーンから時計回りに1周してみよう
通りからまず目に飛び込んでくるのは、円柱形の飾りがないクーチャーン(象の墓塔)だ。

クーマー(馬の墓塔)はその裏になり、さらにその右手には博物館風の小さな建物、その前に大きな象の像が置かれている。
見学(お参り)をするのであれば、まず脇の東屋でお供えを買ってクーチャーン(象の墓塔)前でお参り、次に墓塔を右に見ながら進んだ裏手のクーマー(馬の墓塔)、その先の博物館、最後に大きな象の像と進めばちょうどグルッと時計回りに一周して元の場所に戻って来ることができるのでおすすめだ。

タイ唯一のユニークな形をしたクーチャーン(象の墓塔)
「クーチャーンクーマー」がある場所は、ハリプンチャイ王国の都の領地の北の境界だったと考えられている。
その中心は、ほかでは見ることができないユニークな形をしたクーチャーン(象の墓塔)だ。

墓塔の周囲の複数の説明書きをつなぎ合わせると、次のようになる。
塔の中には牙が納められているが、この「プーカムガーキヨウ」が緑色の牙を向けた先にいる人間は、全員がすぐに死んでしまうという特別な力を備えていると考えられていたため、牙が空を向くような形で納まるよう円柱状の塔が建立されたと言われている。
クーチャーンと同年代に建立された同じような形状を持つ塔はミャンマー南東部に一部見られるが、タイ国内ではこのハリプンチャイ王国の時代のものしかない。
確かに自分も、このようなスタイルの塔をタイのほかの場所で見た記憶がない。
墓塔自体は目立った装飾もなくシンプルな姿なので正直おもしろいとは思えないが、やはりこれが王女が戦死した象を祭るために建立したというストーリーがつくと感慨深く眺めることができるだろう。
クーチャーン(象の墓塔)の正面は靴を脱いでお参りをする場所になっており、右手には誰かが寄進した象の像が並んでいる。
向かって左手にある東屋では、通常の花や線香とろうそくがセットになったお参り道具のほかに象の大好物であるバナナやサトウキビを売っているので、ぜひそちらもお供えしよう。





クーチャーンよりずっと小さいクーマー(馬の墓塔)
クーチャーン(象の墓塔)の裏手にあるクーマー(馬の墓塔)。
こちらは、タイの至るところで見かける釣鐘型の墓塔だ。


説明書きによれば
大きな円形のチェディ(仏塔)は四角形の基壇の上に乗っているが、基壇のすぐ上は蓮の形を転化させた3段の円形の装飾が2セットつけられている。
このような様式のチェディ(仏塔)は、タイ暦18世紀ごろにスリランカからパガン(ミャンマー)経由でスコータイに伝わったと考えれる。
スコータイではパヤユエン寺院に同じようなスタイルのチェディ(仏塔)が残っている。
とのことだ。
墓塔の前には馬の像をしたがえた祠が建っており、こちらにもお参りする人が多く線香などが供えられている。

大きな象のお腹の下をくぐって願掛けしよう
クーチャーン(象の墓塔)とクーマー(馬の墓塔)は以上で終了なのだが、クーマー(馬の墓塔)に向かって右手に小さな建物があり、中には象牙をはじめとする当地ゆかりの(たぶん)ものが展示されていて小さな博物館のようになっているので、ついでに見学しよう。

建物の周囲にはおそらく地元の人の寄進だろう象や馬の像が所狭しと並べられていて、篤い信仰を集めていることがうかがえる。


さらに、その前の小さな広場のようになった場所にはこれもおそらく誰かが寄進したのだろう実物大の象の像が置かれている。


一番大きな象の下のタイルには矢印が記されていて、身体の下をくぐれるようになっている。
タイでは象の下をくぐると願いが叶うと考えられており、エレファントキャンプなどに行っても象の下をお金を払ってくぐらせてもらうことができるが、ここではたとえ置物であっても象の下ならくぐればご利益があるということのようだ。
ここまで来たら、せっかくなのでぜひやってみよう。
象の前には喜捨を入れる箱が置いてあるのでお金を入れるのを忘れずに。


こちらもお詣りする人が多いのだろう、鼻にはいくつもの花輪がかけられておりタイの人々の象に対する大きな愛情がひときわ感じられる。
ラムプーン観光でぜひコースに加えてほしい
今回紹介した「クーチャーンクーマー」は、ラムプーンにあるほかの見どころに比べると地味で正直インスタ映えがするわけでもないし、ガイドブックとかでほとんど紹介されていないのも何となく納得できる気もする。
が、ここがチェンマイ(ラーンナー王国)とは異なるハリプンチャイ王国という別の文化が栄えた場所であり、その創始者と言われるチャーマテウィー女王が戦争で死んだ象と馬を供養するために建てたというようなストーリー込みで見学(お参り)すると、きっと気持ちも違ってくるはずだ。
ラムプーンの人の中には、自分たちをハリプンチャイ王国の末裔でコンムアン(チェンマイ人)とは異なると考えている人もいる(実際言葉は微妙に異なるらしい)。
この「クーチャーンクーマー」はそんな誇り高きラムプーンの人々が足繁く通う場所で、タムブン(徳積行)ができる寺院でもないのにお参りする人が絶えないということは、ここが彼らにとってかつて王国が栄えたハリプンチャイの末裔としてのプライドが感じられる特別な場所だからなのかもしれない。
ラムプーン旧市街の観光スポットとは異なり観光バスが来るようなこともなく、こじんまりとしていることもあって落ち着いた雰囲気が保たれているので、1000年以上前から栄えたハリプンチャイ王国のいにしえをしのびながらぜひまったりお参り(見学)してほしい。
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