サワディーチャオ(สวั๋สดีเจ้า)は、チェンマイ語の女性の挨拶(標準語はサワディーカ)です
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連続ノンフィクション小説 ダムロン物語~あるチェンマイやくざの人生~ 第21話~第25話 by蘭菜太郎

ダムロン物語
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第25話:ラムプーンの釣り掘(1)

ソンクラーンの水かけ祭りが終わり、本格的な雨期が始まろうとしていた頃、ソムサックが「いい釣り堀を見つけたので行かないか。」と言ってきた。何でも、釣り好きの友達から聞いて、彼にしては感心なことに、すでに場所の確認にも行っていた。

翌日、さっそく様子を見に行くと、これがなかなかの釣り堀であった。ラムプーンの市街を越したところにあり、トゥクトゥクでは1時間ほどかかるが、チークの巨木が並ぶ旧街道を主に通り、道もよく快適でそれほど苦にならない。この釣り堀の名は「マイトリー(サンスクリット語で「友達」という意味)・フィッシング&レストラン」とあり、鉄の門の入口に大きなブロンズ製の魚が噴水の水を浴びてるのが置いてある。中に入って、駐車場にトゥクトゥクを止めて見やると、平屋の大きなレストランの前に縦50m、横80mくらいの長方形の池があり、手前の一辺に5~6人が座れる屋根付きの小屋が8棟、点々と並んで建てられていた。
ここの女主人らしいおばさんに話を聞くと、食事をすれば釣りをしてもよいが、釣れた魚は1kg30バーツで買い取らなければならないと言う。ただし、練り餌のみで、ルアー釣りや疑似餌、生餌は禁止とのこと。とにもかくにも早速釣り始めたが、あまりアタリがない。少したってからふと周囲を見回すと、テーブルの陰に何か内臓らしいものの入ったビニール袋が隠すように置いてあった。どうやら、前に釣りをした人が置いていったものらしいが、女主人が禁止していた生餌であるらしい。これを内緒でチョット試したところすぐにアタリがあり、30cmほどのタイでは「プラードゥック」と呼ばれているナマズが釣れた。こいつはタイでは高級魚で、さっぱりとした白身は煮ても焼いてもフライにしてもおいしく、タイ人はこの魚が大好きである。続いてこの生餌で何匹か釣ると、賄いの女の子が「餌は何だ?」と確認しに来たので、バレないうちに練り餌に戻したが、生餌であればかなりアタリがあるので、魚がいることはわかった。ソムサックが「あれは、ニワトリの内臓だ。」と言っている。そこで、私は練り餌を水のかわりに内臓の中にあるドロドロとした水分で混ぜればどうだろうか、と思いついた。拾った鶏の内臓を絞って、ものすごいニオイのするビチグソのようなもので少量の練り餌を作り早速試してみると、いやあ釣れる釣れる。プラーニンやプラーカーオと呼ばれている雑魚もかなり大き目だし、30cm以上あるイソックという赤腹の魚も2匹釣れた。イソックはとても引きの強い魚で、このくらいの大きさがあるとかなり釣り応えがある。キューンと、小気味よい糸鳴りがする。こんな調子で、昼過ぎまでには4~5kg釣れてしまった。にわか作りのウンコ臭い練り餌はたちまちなくなり、普通の練り餌にした途端にアタリが来なくなった。

「よし、それなら今度は大量にこの餌を作って来ることにしよう」と決め、釣りをやめて昼飯を食べることにした。メニューを見ると、洋食は種類が少ないが、タイ料理と中華料理はたいていのものが揃っている。釣り堀の食事としてはできすぎである。初めてなので、試しに色々注文してみた。カニのカレーに野菜いため、雛鳥とタンの焼きものにトムヤムクン、小エビのチャーハンと、ソムサックと2人ではとても食べきれない量を注文したので、注文取りの女の子が驚いている。さてその出来ばえは……、と楽しみにしていた料理は、なかなかのご馳走であった。予想以上であった釣果より、さらに予想以上のおいしい料理に舌鼓を打つ。こいつはイケる!!
予想通り、とても食べ切れはしなかったが、ソムサックは「うまいものを残すのはもったいない。」と、ヒーヒー言いながらむりやり胃袋に詰め込んでいる。さらに「食べ残しも、犬にやるんだ。」と言い、鳥の骨まで賄いに言いつけてビニール袋に入れてもらっている。
例の練り餌を用意してまた来ることにして、精算を賄いに言いつける。ここの賄いの女の子は皆メチャクチャかわいくて、ついニヤついてしまう。食事の値段も料理の味から見て安いと思うし、釣り代が人数や使う竿の数ではなく、釣果で決まるのも気に入った。たくさん釣れば当然料金は高くなるが、全然釣れなければタダである。この日の釣果は5kgで、釣り代は150バーツであった。

トゥクトゥクに釣った魚や釣具を詰め込んで帰り支度をしていると、30歳くらいの長身やせ型の色の黒い精悍な男の人がやって来て、「チェンマイから来たのか?」とソムサックと話かけている。しばらく言葉を交わしていたソムサックが、私に「彼が、あのうまい料理を作ったんだ。ここの料理人だよ。」と教えてくれた。「おおっ、そうか。あの料理はうまかった。またぜひ来るよ。その時を楽しみにしているので、よろしく頼むね。」と、挨拶をした。この彼の名前は、ミスターダムと言った。後に、このミスターダムとも大の仲よしになるのだが、これが彼との最初の出会いであった。

帰りがけに、市場に寄って未加工の鳥の内臓を2kgほど買ったが、想像以上のニオイに圧倒されてしまった。わずかの間に目が痛くなり、頭がクラクラした。まさに、鶏糞そのものである。このすごいニオイが魚を呼ぶんだ、とはわかっていても、その売り場に長くとどまることはとてもできなかった。

ダムロンの家まで帰りつき、ティップにその鶏の内臓で練り餌を作る相談をすると、早速ボールに腸の中の鶏糞そのものの、たまらないニオイのするドロドロした汁をしぼり取り、釣り餌を混ぜて「こんなもんでどうか。」と、試作をしてくれた。それは、釣り堀で隠れてコソコソ作ったにわか作りの餌よりもさらにニオイがきつく、ネットリとして重くて、とてもよさそうであった。私はそのできばえに満足し、「今度は、これでバッチリだぞ」と、大いに期待がふくらんだ。

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