タイ(チェンマイ)はお米大国
今さら改めて言うまでもないが、タイはお米大国だ。
FAO(国連食糧農業機関)によれば、生産量は年間1,875万トンで世界第7位(日本は781.6万トンで世界第13位)、消費量に至ってはタイが1,170万トンで一人当たり年間消費量は172.2kg(世界第8位)、それに対して日本は796.6万トンで一人当たりの年間消費量はわずか55.2kgで世界第50位だそうだ。
簡単に言えば、タイ人が1日あたりおにぎり換算でおよそ7個(306g)食べているのに対し、日本人は3個(119g)と2.5倍以上の差がある。
こちらの人達は朝からムーピン(甘めのタレを塗った豚串焼き)にカーオヌン(カーオニヨウ=もち米)というスタイルの人も多く、通勤通学路にあたる道沿いにはその露店がたくさん並んでいるところを見たり、家族4人の朝食でもち米1.5kgとかを普通に食べているのを見ると、コーヒーにフルーツだけ、あるいは食べてもせいぜいライ麦パン一切れかシリアルを少しという自分のような人間と較べれば、そりゃ消費量もそれだけの差が出るよなあ、と納得だ。
それでも、自分は朝食以外は基本的にタイ料理しか食べないので、食べるお米の量は日本に住んでいた頃に比べれば格段に増えたと思う。
昼は麺類を食べることも多いが、クエティオならば材料は米だし、夕食は日本であればカミさんが作る料理がバラエティに富んでいたので主食はパスタやパン、場合によっては主食はなし、なんてことも多かったが、こちらではタラート(市場)や近所の店で買って来たおかずがほとんどで、その場合はほぼ間違いなくご飯(米)を食べることになる。
そもそもタイ料理というのは基本的にご飯のおかずなので、米と一緒に食べないと何か物足りない感じになってしまうのだが……
チェンマイ暮らしで日々ご飯(米)を食べるようになると、こちらでは日本よりはるかにさまざまな種類の米が流通していることに気がつく。
もともと稲は中国南部の雲南省からラオス、タイ、ミャンマー周辺に広がる山岳地帯で生まれたとされており、また当地では日本で食べられているジャポニカ種ではなくインディカ種が一般的である。
インディカ種はジャポニカ種に比べると細長いのが特徴、と言われるが、実際にこちらで見てみると単に形だけではなく色もほぼ白だけの日本に比べたら、実にバリエーションが豊かだ。
また、タラート(市場)などを見ていると、実はインディカ種だけではなく、特に原産地により近い山岳民族が作る(食べる)米の中にはジャポニカ種も結構ある、ということに気づかされる。
で、チェンマイのあちらこちらで米を買って食べるようになったら、見た目だけでなく風味も実に個性豊かだ、ということに改めて感動を覚えた。
日本でもコシヒカリやササニシキを筆頭に、最近ではつや姫やひとめぼれ、きらら397などさまざまな品種(ブランド)があるが、おおむね風味の違いは微妙なもので人によってはその違いをはっきりと認識できないかもしれないレベルだ。
ところが、こちらの米といったら味はもちろん、香りや噛みごたえが種類によってまったく異なる。
せっかくお米大国で原産地に近いチェンマイ(タイ)に住んでいるのなら、日本だけにいたら絶対に食べる機会のないようなお米をも試してみたいと思い、自分はさまざまな場所でさまざまな米を買って楽しんでいる。
炊飯器に米と水を入れて炊き、フタを開けて食べてみるまでどんな形・色・艶、香りや味、硬さなのか予想がつかず、初めての米を買った時には本当にワクワクする。
そこで、せっかくいろいろな米を食べているのでシリーズ形式で紹介してみようと思う。
今回はその第1弾ということで、まずはプロローグとしてチェンマイ市内で主に米を売っている場所とそれぞれの特徴などについて、簡単に記したい。
米を売るさまざまな店(場所)と特徴について
大型スーパーマーケット(ビッグCやロータスなど)
売場が大きいので色々な種類の米が売られているが、その多くは全国で流通している有名ブランドのものだ。
自宅にポストインされるチラシでも、米はセール品の目玉になっていることが多い。
多くは精白米で、玄米や変わり種の米は少ない。
5kg、10kgというような大容量のものが多く、自分のような少人数の家庭では持て余してしまうのが難点。
正直言って質より量(値段)、といった感じの品揃えなので、自分のようないろいろな変わった米も食べてみたい、と思う人には向かない。
これは、7-11、ロータスエクスプレスといったコンビニやミニスーパーにも当てはまる。
リムピン・スーパーマーケット
「リムピン・グロッサリー」という名のミニ店舗まで含めれば、チェンマイ市内に10店舗ほどある、東京で言えば成城石井や紀ノ国屋のような輸入品もたくさん扱っている高級スーパーマーケット。
日本の食材も豊富なので、こちらに住んで日本食を食べている(タイ料理が食べられない)人の多くも利用している。
米売り場にも日本から輸入したと思われる“純”日本米やタイで栽培された日本米などが置かれているが、普通のタイ米の品揃えもさすが高級スーパー、他の店とは大きく異なっている。
まず、売られている米のパッケージがきれいでオシャレ。
また、オーガニック栽培された米や品種改良で健康増進によいとされる栄養分を多く含んだ米など、特色のあるものが売場の中心を占めている。
高級スーパーなので他の店舗と較べれば値段は断トツに高いが、こだわりの強い人、もしくは日本へのお土産で米を買いたい人には一番おすすめできる店だ。
ロイヤル・プロジェクト・ショップ
故プミポン国王が中心となって王室が設立した、タイ北部の山岳少数民族の貧困解消ならびにケシ栽培の撲滅を目的とした財団(ロイヤル・プロジェクト)によって管理・生産された農産物をはじめとするさまざまな産品を販売するのがロイヤル・プロジェクト・ショップだ。
大きな店舗は自分が知る限りチェンマイ市内に4店舗あるが、品ぞろえが一番充実しておりまた買い物がしやすいのは、チェンマイ大学のキャンパス内にある旗艦店だろう。
最下部やや左に四角く写っているのが米だ。
上記の通り山岳少数民族の生産した農産物を扱っている店なので、「カレン(族)*****」などと民族名のついたものをはじめとして、ここの米はかなり変わったものが多い。
品種だけでなく、半搗き米とかやはり他ではまず見ることのない(普通は精白米か玄米しかなことがほとんど)米があったりするのもまた楽しい。
農薬の使用などについても財団によって管理されているので、そういったものが気になる人も安心して食べられるだろう。
真空パックされて売られているので、日本に持って帰るのにも都合がよい。
タラート(市場)
市内に何か所もあるタラート(市場)の中には、米を専門に扱う店が必ず数店舗入っている。
リムピン・スーパーマーケットやロイヤル・プロジェクト・ショップのような高級米や変わった米はないが、日本と同じように品書きには産地や新米か古米かなどが値段(下の写真では1リットルと1kgと2つの値段が出ている)と言ったことが書かれていてるので、タイ語が読めるなら楽しいだろう。
ちなみに、チェンマイ盆地の中では南部のサンパトーンが米どころとして知られている。
また、理由はわからないのだが、新米よりも古米のほうが値段が高いことも多い。
タラート(市場)に限ったことではないが、あまり管理のよくないところで買うと冷蔵庫に入れておいてもすぐにコクゾウムシが出てきたりするので、注意が必要かも。
たぶん値段はスーパーマーケット(ただしこちらは大容量)と並んで一番安いだろうが……
JJマーケットの日曜安全食品市
人々の間ではオーガニック野菜を中心とした安全食品が豊富に揃っているとして知られている、市内北部のJJ(Jing Jai=จริงใจ=「誠心誠意」の略)マーケットで毎週日曜日の午前中に開催される定期市(タラート・ナット)。
この中にも何軒か米を扱っている店が出ているのだが、中でも一番大きな東屋の東寄りに出ている米屋は、たぶんロイヤルプロジェクトショップと並んで一番自分が多く米を買っている場所だと思う。
並べている米の種類はそれほど多くないが、山岳民族が作った玄米を中心に、ロイヤル・プロジェクト・ショップが扱っていないような、例えばラフ族の緑米とかリス族の作ったジャポニカ種とかほかでは見たこともない品種のものがあって、見ているだけでも楽しい。
場所柄外国人のお客も多く、出ている品書きは英語併記で店主の男性も普通に英語を話すのでタイ語ができない人でも買い物しやすい。
買った米はただ透明のビニール袋に入れてくれるだけ(持ち手のついた白いビニール袋はこの市場では廃止)なので、日本の友人知人へのお土産にしたりするのには適さないが、自家消費分として買う場所としてはおすすめだ。
このほかにも、タラートナット(定期市)としては、チェンマイ大学農学部のメーヒアキャンパス内の土曜朝市、ナイトバザールのすぐ近くで金曜朝に開かれるチンホー(馬に乗った中国人=隊商雲南人)定期市などでも少し変わり種の米を売っていることがある。
「タイ米は臭くてまずい」という誤解の理由
タイ米というと、1993年の冷害による米不足で食べた(食べさせられた)時のイメージから「臭くてまずい」と思っている人は、特にお年寄りでは多いと思う。
が、実はほとんど知られていないが、あの時日本政府(農林水産省?)がわざわざ指定して輸入したタイ米は、オーダー前にタイ政府が日本から打診を受けて用意していた日本人のし好に合った品質のよいものではなく、タイでも人間は食べない飼料用の米が多かった、という話がある(真偽不明。タイの一部新聞などで報道された)。
おそらく「タイ米って、食べてみたら安くておいしいじゃない」となって、日本国内の米産業に影響が及ぶことを恐れた政府、官庁、農協などの利益団体が寄ってたかってタイ米の評判がよくなることを阻止するためにそうしたのではないだろうか。
当時、タイから輸入した米の中にネズミの死骸が入っていて大きなニュースになったが、そりゃ人間が食べない米ならば中にネズミの死骸が入っていたって不思議ではないよね……
しかし、今では国内の至るところにタイ料理をはじめ東南アジア、南アジア料理レストランがあって、そうしたところではタイ米が普通に使われていることから「タイ米は臭くてまずい」などと考える人は一部を除いてもう少ないのかもしれない。
この「タイ米を楽しもう!」シリーズ、次回からは自分が実際に食べた米を取り上げて紹介していくことにしよう。
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