かつては陶器の大産地だったサンカムペーン
タイの陶器(焼き物)というと、ベンジャロン、セラドン、ブルー&ホワイトの3つが代表格と言われているらしい。
いずれもみやげ物店などでたくさん売られているし、チェンマイには特にセラドン焼きの専門店がいくつもある。
自分は焼き物についてはまったく詳しくないのだが、マニアの人達の間ではこうした現在有名なものより「宋胡録(すんころく)」のほうが人気が高いらしい。
日本大百科全書によれば、宋胡録(すんころく)は14世紀にスコータイ近くのサワンカロークで中国人陶工の指導によって焼かれ始めた陶器で、桃山・江戸初期に日本にもたらされ特に茶人の間で好まれたという。
日本の呼び名「宋胡録(すんころく)」もサワンカロークが訛ったもので、15~16世紀に最盛期を迎えたが17世紀には理由は不明だが廃窯になってしまったそうだ。
現在では窯が再建され再び焼かれ始めており、サワンカロークの街には多くの店が立ち並んでいる。
スコータイからほど近いこともあって日本人も数多く訪れており、日本語の看板を出して日本語で商売している店もあるくらいだ。
自分も訪れた時に皿を1枚買って、東京の自宅に飾っている。
しかし、当時サワンカローク以外のタイ北部の各地でも焼き物が盛んに作られていたことはあまり知られていない。
有名なのはチェンラーイ県ウィアンパーパオ郡のウィアンカローンで、サワンカローク同様再興された窯でわずかに焼き物が作られている。
そしてもう一か所名を馳せていたのがチェンマイの東にあるサンカムペーンだ。
残念ながら自分が知る限りサンカムペーンの焼きもの作りは完全に廃れてしまい今は窯もないが、往時の陶器などを展示した博物館を併設した寺院がある。
それが今回紹介する「ワットパートゥン」だ。
チェンマイから25km、公共交通機関はない
「ワットパートゥン」は、チェンマイの東隣の街サンカムペーンの中心部から10kmちょっとさらに東に行ったところにある。
チェンマイ市内中心部からだと25kmほど離れている。
サンカムペーンの街の中心部まではワローロット市場脇からソンテウ(乗り合いピックアップトラック)が頻繁に出ているが、そこから寺院までの公共交通機関はない。
そのため、行くのであればスクーターや自動車など(体力がある人は自転車も可)自前の足が必要だ。
チェンマイ市内から来てサンカムペーンの中心部を抜けるとY字路があるが右側の国道1147線に入り、温泉へと通じる国道1137との信号のある交差点、バーンティ経由でラムプーンへと通じる国道1147号本線との分岐のT字路のいずれも直進すればいいので迷うようなこともないだろう。
楼門も立派で目印になるが、英語などは書かれていないのでタイ語が読めなければ上記マップを頼りにしたほうがいい。
サンカムペーン陶器とは
【寺院内博物館の説明書きより】
クライシリー・ニマーンヘミン氏(ガネッシュ注:チェンマイ市内西部の大地主ファミリーの一人で、一族が寄付した土地にできたのが名前を冠したニマーンヘミン通り)が1952年にオーンタイ郡(ガネッシュ注:この寺院のある一帯)で多くの窯跡を発見し、1960年にスコータイ時代のセミナーでサンカムペーン陶器に関する論文を発表したことによって、多くの学者の関心を集めた。
1970年から71年にかけてチェンマイ県美術局の学芸員がいくつかの窯跡を調査・発掘し、サンカムペーン陶器と窯に関する報告書を出版した。
1984年には美術局タイ北部考古学調査プロジェクトのスタッフが5か所の窯跡とその出土品を調査研究した。
これらの調査結果から、昔の人々がいつどのようにして作陶していたのかを知ることができる。
サンカムペーンの窯跡のほとんどはオーン川の渓谷にある。
現在は地元の人たちによってパトゥン遺跡、ワットチェンセーン遺跡、コーボン遺跡、ドーンダム遺跡、トンチョーク遺跡、フワイブアックピン遺跡、フワイプーレーム遺跡、ドーイトーン遺跡、チャムパーボン遺跡、トンヘーン遺跡などと呼ばれている。
これらの窯はいずれも粘土で作られており、炎が床と水平に移動するクロスドラフト型だ。
出土品はさまざまな形や大きさの壺、鉢、皿、カップ、ランプ、花瓶、置物、仏像などだった。
ほとんどの出土品は褐色や青磁の釉をかけ、下絵をつけたタイプだった。
サンカムペーン陶器の有名な代表作は、内側に魚の模様が描かれた下絵つきの皿と褐色の釉薬の壺だ。
現在、サンカムペーン陶器と窯に関する多くの研究により、製作されたのは14世紀から17世紀であることがわかっている。
シンプルな絵付けの陶器が展示されている
寺院は非常に大きな敷地を有しており、駐車場だけでゆうに100台分以上はありそうだ。
内部も噴水つきの池があったりして郊外の寺院にしてはきれいに整備されているが、これは後述のクルーバーラーのミイラにお詣りする地元の人やタイ人観光客が多いからだろう。
しかし、自分が個人的に一番の見どころと思うのは、ウィハーン(本堂)のすぐそばにある陶器博物館だ。
こじんまりとした建物の中に14世紀から17世紀にかけてサンカムペーンで焼かれた陶器が割と無造作に展示されている。
説明書きも完備されているとは言いがたいが、皿などは中心部にこの時代の一番ポピュラーなデザインの魚の姿がシンプルに描かれているだけでその周囲の装飾がまったくないなどサワンカロークのものに比べてずっと素朴な絵付けになっていて、それがかえって雰囲気を醸し出していると思う。
博物館(พิพิธภัณฑ์)と名づけられてはいるがいつ行っても見学者はいないのではないか、と思うくらいなので、ノンビリと見学するといいだろう。
木造の立派な本堂の高僧のミイラにもお詣りしよう
ワットパートゥンのウィハーン(本堂)は、木造(たぶんチーク材)のかなり立派な造りだ。
ウィハーン(本堂)の内部は広々としているが、中央奥の普通はご本尊の仏像が置かれている場所には蝋人形と透明な棺が置かれている。
クルーバーラー(ครูบาหล้า)の像とミイラだ。
クルーバーは日本語だと「聖人」もしくは「高僧」ということになるだろうが、コンムアン(チェンマイ人)にとっては単純に位や徳が高いお坊さんという意味ではなく、むしろ呪術や魔法にすぐれ時には奇跡を起こす、というようなニュアンスが含まれている。
と言ってももちろん本当に呪いをかけたりすることはなく、普通のお坊さんではできないような大きな社会的貢献を行った場合に使われることが多い。
最も有名なクルーバーはドーイステープまでの自動車道を建設したクルーバーシーウィチャイで、タイ北部だけでなくタイ全土でも知らない人はいないと言ってもいいくらいだろう。
残念ながらクルーバーラーがどのような高僧だったのかはわからないのだが、おそらくこの寺院がこれだけの規模を維持できているのもお詣りに来る人が多いからに違いない。
自分が訪れる時はいつもほとんど人がいないのだが、ウィハーン(本堂)前にはドライアイスの煙がたかれた小さな池があったり人が集まる寺院にはつきものの宝くじ売りの人がいたりするので。
タイの寺院でこのように高僧のミイラを安置しているところは結構あるが、クルーバーラーは全身を金箔で覆われているからか他の寺院で感じるようなミイラ独特のニオイとかもないのが印象的だ。
ボーサーンでの買い物とセットで訪れるのがいいかも
ワットパートゥンは普通外国人旅行者が訪れるような寺院ではないが、当地の歴史をうかがい知ることができる陶器博物館があったりクルーバーのミイラにお詣りできるなどなかなか興味深い場所だ。
ショッピングスポットでサーペーパーと呼ばれる紙製品(傘が有名)を扱うみやげ物店が立ち並ぶボーサーンからならそれほどの距離はないので、組み合わせて訪れてみてはいかがだろうか。
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