台湾の木を使ったお茶で有名なメーサローン
タイ最北部チェンラーイ県の標高およそ1,100mの山の中にある小さな村メーサローン。
第2次世界大戦後に勃発した中国共産党との内戦に敗れ中国からミャンマー経由で敗走してきた段希文将軍率いる国民党93師団第5軍の兵士とその家族によって作られた。
その後、一部の元兵士とその家族はケシ栽培など麻薬製造および密輸などに携わりながら大陸の中国共産党への反攻に転じることをもくろんでいたものの、最終的には武装解除してタイから居住権を与えられ国籍を取得した。
国民党なので台湾との結びつきが強く、元々は当地で生計を立てていくためにと台湾から寄贈された苗木で始めたお茶の栽培が現在では大きな産業に成長しており、村の周辺一帯の山々はお茶畑が広がり村の中には何軒も茶芸館や茶葉販売店が軒を連ねている。
やって来るタイ国内外からの観光客も、風光明媚な景色と合わせて茶葉をお土産として買って帰るというのがこの村の楽しみ方の典型的なパターンだ。
村の生き字引のおばあちゃんが営む「國琴商店」
自分とカミさんはチェンマイからのドライブを兼ねて最低でも年1回はメーサローンを訪れるのだが、お茶を買うのは「國琴商店」と決まっている。
自分が初めてこの村を訪れた1989年、村の中心部は現在の7-11やタラート(市場)があるあたりだったのだが、現在はもっと山の上の傾斜の少ない広々とした土地に移っている。
國琴商店は、その新しい村の中心部からほんの200m南方向に下ったところにある。
通り沿いに「國琴商店」と漢字で書かれた看板が出ているので、すぐにわかるだろう。
ちなみに、反対方向(タートーンとメーチャーンを結ぶ国道107号線)から来た場合、看板の文字などは全部はがれ落ちてしまって何もないので通り過ぎてしまう可能性大だ。
店内はかなり広く、壁にしつらえられた棚にはずら~っとお茶が並んでいる。
ここは卸もかなり手広くやっているようで、店頭に米俵くらいありそうな大きな袋に入ったお茶が所狭しと置かれていることも多い。
また、お茶以外にもさまざまな特産品を陳列している。
店は「アマー(台湾語で「おばあちゃん」という意味)」と愛情を込めて人々から呼ばれている女性が経営している。
この店を知ったのは、チェンラーイ在住の当地の事情に詳しいお友達にご紹介いただいたのがきっかけ。
「村の歴史などについても詳しいから、きっとガネッシュさんと話が合いますよ」とのことだったのだが、まさに初対面から意気投合してしまい今は店に行くとまずはハグしてしまうほどの仲よしだ。
アマーの話すタイ語はかなり訛っていてチャーオカオ(ชาวเขา=山岳民族)が話すタイ語のような感じで、もしかしたら普段の会話ではタイ語を使っていないのかもしれない。
もっとも、こちらのタイ語だって発音は相当いい加減なので、お互い第二外国語(?)同士でコミュニケーションするうえではまったく問題はないのだが。
この店の魅力は、もちろんお茶もさることながらこうしたアマーとの会話や店の中に流れるのんびりとした空気感だったりする。
聞き茶もゆる~い作法で気軽に楽しめる
店の入口には10人ほどが座れるテーブルとイスが置かれているが、ここはワンボックスカーなどでやってくるツアー客用だ。
店の中には別途聞き茶のできるスペースが用意されているのでそこに座ろう。
聞き茶は、アマーがやかんに入れてお湯を沸かすところから始まる。
お湯が沸くのを待つ間に、目の前にお茶の葉の袋がいくつか並べられる。
これから聞き茶させてくれるお茶たちだ。
そして、その前にはお茶請けのドライフルーツなども置かれる。
お湯が沸くとアマーは慣れた手つきでお茶を淹れ始める。
【動画】メーサローンの「國琴商店」での聞き茶
聞茶杯をかぶせた茶杯が目の前に置かれる。
茶杯から聞茶杯を持ち上げて香りをかぐまでが、自分にとっては最も好きな時間だ。
お茶を飲みながらアマーとその香りや味について話したり、村の歴史などについていろいろと聞いたりするとあっという間に時間が過ぎてしまう。
聞き茶はだいたい3種類から始まるのだが、アマーが「あれを飲め、これを飲め」とどんどん淹れてくれるので自分はいつも10種類くらい楽しませてもらっている。
後で買う時に混乱しないよう飲んだ順番に茶葉のパッケージを並べていくので、いつも最後はこんな感じになってしまう。
お茶うけもどんどん追加で出て来るので、いつもお腹がいっぱいになってしまう。
ちなみに、店で一番いいお茶は実はここメーサローンで作ったものではない。
アマーの話では、メーサローン周辺は長年お茶の栽培を続けた結果土地がやせてしまい今では上質の茶葉が採れなくなっているらしい。
なので、ミャンマーの山で山岳民族にお茶を作らせてここに運んで来ているとのこと。
メーサローンのお茶についての、知られざる真実である。
聞き茶が終わったら、気に入った茶葉を買おう。
茶葉は質も値段もピンキリで、実に幅広い。
いいものはタイの物価を考えればかなりのいい値段(それでも香港や台湾で買うことを考えれば激安だ)する。
あれもこれもと買っていると、あっという間に3,000THBは軽く超してしまうだろう。
お茶以外にも変わり種のお土産あり
國琴商店にはお茶以外にも特産品が並んでいる。
聞き茶の時に出してくれるお茶うけ、薬草酒やハチミツと言ったものだ。
ハチミツは、半分以上白濁している。
タイ北部では、国道沿いでこのようなハチミツの瓶を並べて売っている露店をしばしば見かけるが、大量に混ぜ物をしていたりしていることが多く時には健康被害に遭う人が出てよくニュースになっている。
この店でもハチミツ100%のものとそうでないものと2種類を売っていて、値段がぜんぜん違う。
試飲(試食)させてもらうとわかるが、ピュアなものと混ぜ物が入っているものでは味も香りもまったく別物だ。
道路沿いの露店と違ってアマーはきちんと2種類を分けて売っているので、その点は安心だ。
薬草酒も手作り感満載。
虎のイラストが描かれいて漢字で「虎骨薬酒」と書かれているが、虎の骨は絶対に入っていないと思う。
メーサローンで作っているらしいのだが、なぜか電話番号がただの6ケタだし。
興味のある人は、買ってみるといいだろう。
ここではあわただしく買い物するのは似合わない
「國琴商店」はワンボックスカーに乗って来る観光客もいたりするが、そういう人たちは店の外に置いてある団体用のテーブルに陣取ってろくすっぽ聞き茶もせずにお茶を買ってバタバタと去っていく。
が、この店の最大の魅力は何と言ってもアマーとの会話を楽しみながらの色々な種類のお茶を楽しむ(そしてもちろん最後に購入する)ことにある。
タイ語もしくは中国語ができないと細かなコミュニケーションは辛いかもしれないが、メーサローンという村、そしてお茶についてアマーから話を聞きながらお茶を飲んでいるとあっという間に3時間くらいはたってしまうくらい、楽しいひと時を過ごすことができる。
メーサローン周辺にこの10年ほどの間に急速に増えたインスタ映えばかりを気にする観光客を狙ったような観光茶園に行くよりも、ずっといい思い出が作れるだろう。
自分は年に一度しか会わないアマーだけど、別れる時にはいつも悲しくて涙が出そうになる。
いつまでも元気で、お茶を淹れ続けてほしいと思う。
万が一何かあった時にも安心の日本語対応
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