「ヨーン族の心の家」という名の郷土料理レストラン
チェンマイ市内中心部から東におよそ15kmの隣町サンカムペーンのはずれにある、築150年の古民家を移築して店としている北タイ郷土料理レストラン。
バンコクなどから来るタイ人旅行者の間では非常に有名なレストランで、2003年オープンと決して歴史があるわけではないが、彼らの間では「市内のフアンペン、郊外のフアンチャイヨーン」という言葉があるくらいの評判の高い店となっている(フアンペンは個人的には決しておすすめとは思わないが)。
店名はフアン(เฮือน=チェンマイ語で「家」)、チャイ(ใจ๋=チェンマイ語で「心」。一般タイ語とはスペルが異なる)、ヨーン(ยอง=ヨーン族)で「ヨーン族の心の家」という意味になる。
ヨーン族は現在のミャンマー・シャン州のムンヨーン(=ムアンヨーン。グーグルマップ)に起源を発し、ビルマ(ミャンマー)との戦いで人がいなくなり荒廃したチェンマイの街を当時の王チャオカーウィラが再建するにあたって18世紀末に移住させた民族で、コンムアン(คนเมือง=都人=チェンマイ人)のかなり多くはこのヨーン族の末裔にあたる。
お店は、その名の通りラムプーン出身のヨーン族の一家が経営している。
サンカムペーンのはずれにあり行くなら自前の足がベスト
店はチェンマイの土地勘がない人には少し行きにくい場所にある。
住所:65 Moo4 T.Buak Khang A.San Kamphaeng
TEL:086-6718710
市内からだと空港からサンカムペーンへとつながるバイパス(国道1317号線)を15kmほど進んだ右手になるが、中央分離帯があるためブアックカーン交差点(T字路)をUターンして100mほど戻って左折ることになる。
店は国道から少し奥まったところにあるが、通り沿いに出ているタイ語のみの看板が小さくうっかりしていると通り過ぎてしまいそうだ。
国道を入ったソイ(路地)にこのあたりには不自然なくらいたくさんの車が止まっているので、それを目印にするといいだろう。
国道1317線は公共交通機関が通ることは皆無と言ってよいので、間違っても市内からトゥクトゥクやソンテウなどで往路だけ行ってしまったりしないように。
自前の自動車やスクーター、もしくはGrabが使えるなど交通手段の確保は絶必だ。
ターペー通りにあった築150年の建物は文化財級
店は通りから見ると、最初は普通のタイ式店舗にしか見えないかもしれない。
手前はカフェ兼お土産物売り場として後から付け足されたもので、店のメインスペースはその奥にちょっとだけ見える正三角形を2つ合わせたような切妻型の建物だ。
現在は色々と手前に付け足されてしまったので全体を見渡すことができないが、当初はこんな感じだった。
これは、元々チェンマイ中心部のターペー通りソイ(路地)マハーハンあった築およそ150年(!)の家屋を3回に分けてこの場に移築したもので、これ自体がひとつの文化財と言ってもいいだろう。
52本の柱で構築されているこの建物の1階は広々としたスペースになっており、木製の質素なテーブルが10数卓ほど並んでいるだろうか。
いくつかのテーブルは船の形をした細長いものになっており大人数が座るこもできるようになっているほか、中にはオーナーが趣味で集めている古い民具である足踏みミシンをテーブルとして使っていたりして面白い。
店を抜けた先にはトイレがあるのだが、その手前にはチェンマイのお菓子などを売る屋台風の小さな店が3~4軒並んでいる。
値段も手ごろなものが多く、ここでお土産を買う人も多そうだ。
この建物右手の古いサームロー(改造自転車3輪タクシー)脇の階段を靴を脱いで上がっていくと2階席がある。
こちらはテーブルではなく座敷がメインとなっており、ちゃぶ台のような座卓が10ほど置かれている。
建物の突き当りにはいったいいつ頃のものであろうか、木製の高貴な人が乗ったっぽい馬車の後ろ部分のようなものがディスプレイされている。
2階は天井がなく屋根がむき出しだ。
一部には竹製の棚がしつらえられており民具が置かれているほか、床の何ヶ所かにも古そうな民具が飾られている。
北タイの古民家の雰囲気を味わえる、という意味ではこの2階のほうがおすすめかも。
さらに、メインの建物の向かって右手にもうひとつほぼ正方形のこぶりな建物があり、中はやはり民具がところどころにディスプレイされたテーブル席となっている。
ちなみに、こちらの建物は新築だがタイルー族の様式を模したものたそうだ。
写真つき英語併記のメニューもでき注文しやすくなった
以前はメニュー兼注文用紙しかなく、タイ語のみだったのでタイ語が読めてかつ北タイ料理についてある程度知識がない人はオーダーするのが結構大変だった。
今でもそのスタイルが基本ではあるが、写真つき英語併記のメニューもいつの間にか用意されていた。
旅行者ならこのメニューを眺めながら直接店員にオーダーすればいいと思うが、自分はいつも元々あった紙の注文票に記入している。
載っている料理は25種類くらいで、他の郷土料理レストランと比較すると少ない。
聞いたところでは、サイウア(チェンマイソーセージ)など手のかかる料理も含め基本的にすべて家族の手作りとのことで種類が増やせないのだそう。
このほかにも、店の入口に出ている黒板に「本日のおすすめ」が書かれているのでこちらもチェックしよう。
値段はこのご時世で100THB程度と大変リーズナブルだ。
全体的に量は少なめなので、2人とかでも色々頼めると思う。
これとは別に10種類くらいのドリンクが載った注文票もある。
全体的にあっさりした料理はどれも美味
料理の味付けは全体的にあっさりしており、辛さも押さえられている。
しかし、味が薄いというわけではなく素材・香辛料どれもが口の中で感じられると同時に料理全体の味のバランスもしっかりしており、かなり高度なレベルに挑戦し間違いなく勝利を収めている。
何を食べても満足できるだろうが、その中からおすすめを特に記すと
ガイヌンサムンプライ
鶏肉のハーブ蒸し煮。
店の一番の名物料理で、普通のガイヌンと比べると塩味が強くそのぶん辛味が抑えられているような気がする。
日によってはモモ肉とむね肉を選べるが、正午ごろに行くと売り切れで食べられないことも多い。
チンソムパットカイ
チンソムはネーム(発酵した豚生ソーセージ)のことで、それと卵を炒めたもの。
あまりネームの発酵臭さや酸っぱさもなく非常にあっさりしており、日本人にも食べやすい料理で特におすすめできる。
ラープコアムー
タイ北部一帯で広く食べられているラープで、元々は結婚式や新築祝いなどハレの席で出されるものだが現在では多くの北タイ料理レストランのメニューに載っている。
イサーン(東北タイ)のラープとの一番の違いは、水分がほとんどないことだろうか。
味付けの濃さ、辛さともほどほどで大変なじみやすい。
エーププラー
魚の切り身にさまざまなハーブを原料にしたペーストを塗り、バナナの葉で包み焼きしたもの。
これも代表的な北タイ料理で、そのままでもおいしいがペーストをカーオヌン(=カーオニヨウ。もち米)につけて食べるのがおすすめだ。
タムカヌン
ジャックフルーツの和え物。
写真では肝心のジャックフルーツが隠れてしまっていて見えないが、ペースト状になるまでハーブ類とともに叩いたもので、これもカーオヌン(=カーオニヨウ。もち米)につけて食べると一段と味が増す。
ゲーンホ
これも代表的な北タイ料理で、ホは「余りものを放り込んだ」という意味。
その名の通り昔は余った料理や食材を一緒くたに混ぜていたが、今はグリーンカレーの素や春雨など、必ず入るものが決まっている。
文字通りさまざまなものが入った北タイ料理だが、この店のものは洗練された味つけで完成度が高い。
ゲーンケーゴップ
カエル肉のケー(白胡蝶)の花スープ。
青菜やタケノコなどが豊富に加えてある。
この店の料理にしては珍しく非常に辛く仕上がっているので注意が必要かも。
ゲーンプリー
バナナのつぼみのスープ。
これもタイ北部を代表する料理だ。
バナナのつぼみといってもスープがバナナ味になるわけではなく、ほのかにその香りがすると言ったところだろうか。
少しクセがあるので苦手な人もいそうだが、ぜひ頼んでみてほしい一品だ。
ゲーンパクワーン
「パクワーン」という青菜と春雨の干し魚出汁スープ。
少しほろ苦くて甘いパクワーンと干し魚の出汁が絶妙の取り合わせで、飲み始めると止まらくなる感じ。
ナムプリックヌム
チェンマイ唐辛子味噌だが、一般的なものよりかなり辛さが押さえられている。
普段タラート(市場)などのもの食べている人に物足りないのではないだろうか。
その分辛いものが苦手な人でも食べられ、またひとつひとつの素材の味を感じることもできるのはメリットだろう。
コンムアン(チェンマイ人)は、本当にお金がない時はこれとカーオヌン(=カーオニヨウ。もち米)だけで一食済ませてしまうこともあるくらいのベーシックフードだ。
ケープムーノーイ
ケープムーティットマン(脂身つきの豚皮のカリカリ揚げ)を非常に小さく作ってある。
こちらではこれを主食のようにしてナムプリックにつけて食べたりするが、この店のものは単品でも非常においしくて、そのままポリポリと食べてもイケる。
カーオヌンクローン
カーオヌンはカーオニヨウ(もち米)のことでそれの玄米。
普通のもち米に比べて多少ボソボソした感じは残るが、その分ベチャッとしたところがなく個人的にはこちらのほうが好きだ。
美術学校教師のオーナーのコレクションが見れるギャラリー
道路をはさんだ店の向かいは、美術学校の先生をしているオーナーの自宅兼アトリエ&ギャラリーになっており、普段は公開されていないが運がいいと見せていただくこともできる。
たまたま自分はその機会に恵まれたが、内部にはものすごい数のオーナーご自身の作品(制作途上のものもある)や、国内外を旅して集めたと言う楽器や民具がディスプレイされている。
オーナーの男性は中年のおだやかなものごしの方で、それらの民具や楽器ひとつひとつについて説明してくれ、楽器は弾いてみせてくれたりする。
いつでもオープンしていて自由に見ることができる、というわけではなくオーナーのご好意で見せていただけるスペースで、もしそのような機会に恵まれたら最後までお付き合いしなければ失礼にあたるので、そのつもりで見学したほうがよい。
自分の時には、オーナーと雑談をしながらだったのでたっぷり1時間半近くかかった。
なお驚いたことに、この自宅兼ギャラリー&アトリエの建物はオーナー自身が設計図を引いて建てたものだそうだ。
シンプルだが機能的で開放感のある造りで、「こんな家に住んでみたいなあ」と思わせるものであった。
行くなら早めの時間帯がいい
店の入口にはラーンナー語で書かれた店名のほかに、「いくら金持ちになっても行いが悪ければよいことはない」というような意味の格言が書かれている。
店(オーナー)の姿勢がよく現れており、実際に店内の雰囲気や店員の態度、料理の味付けなど店全体にこの言葉(経営理念?)がキチンと貫かれている気がする。
それも店の人気の要因のひとつになっているに違いない。
市内からわざわざ出かけて行くのは大変だが、ボーサーンやサンカムペーンへのショッピングや温泉、ゴルフに行った際の昼食場所としては特に都合がいいだろう。
営業時間は10時から16時と大変短いにもかかわらず12時過ぎに行くとすでにいくつかの料理は売り切れのことも多い。
行くのであれば、ブランチがわりに正午前に行くことをおすすめする。
月曜定休。
何かあった時にはやはり大手のほうが安心です
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