「プロフィール」にも書いている通り、自分は今の家に引っ越す(=日本からチェンマイに拠点を移す)前は友人一家とホンテウ(タイ式タウンハウス)で共同生活をしていたのだが、その友人の奥さんはタイヤイ(シャン族)だ。
料理が得意で、自分が住んでいた頃から家のガレージを利用して色々な食べ物を作って売ったりしているのだが、ある日「タイヤイ式のカノムチンを作るけど食べる?」と電話があった。
カノムチンは、日本のタイ料理紹介本では「タイ風素麺」と言われていることが多いようだ。
確かに、素麺のような腰のない細麺にさまざまなスープをかけたもので、コンムアン(คนเมือง=チェンマイ人)はカノムチンとは言わず「ノムセン」と呼ぶことが多い。
チェンマイ名物の麺というとカーオソーイというイメージが強いけど、自分は歳を取るにしたがってこってりと脂っこいカーオソーイよりもカノムチンを好んで食べるようになっている。
当地で一番ポピュラーなのは、ナムギヨウというスープをかけたものだが、この「ギヨウ(เงี้ยว)」にはタイヤイ(シャン族)という意味がある。
本を読んでいると、タイヤイではなく「コンギヨウ(คนเงี้ยว)=ギヨウ人」と書いていることもあるくらいだ。
で、この奥さんに「ナムギョウじゃないの?」とたずねると、「ぜんぜん違うよ。たぶん食べたことないと思うわよ」と言う。
「それはおもしろそうだ」と、とにかく食べられるものは何でも食べてみなければ気が済まない自分は、すぐにごちそうになりに出かけた。
家に着くと、すでに用意が済んで食べるだけになったカノムチンがテーブルの上に置かれていた。
ノムセンの麺そのものはごくごく普通だ。
しかし、皿には一緒にプラトゥーというアジに似た魚の揚げたものが添えられている。
プラトゥーは「タイ鯵」と言われることもあるようだが実際はサバの仲間で、日本では「グルクマ」と呼ばれ沖縄周辺ではポピュラーな魚らしい。
店で売るのではないので、レタスとか少し高級なものも混じっているけど、大量の生野菜が添えられている。
スープ、というかタレを見ると、真っ赤で脂が表面にうかんでいる。
ちょっと見はナムギョウにも似ているけど具が多い。
唐辛子がたくさん入っていて、色的にはナムプリックヌム・プラーラーをスープ状にしたような感じだ。
これは辛そうだ……。
肝心の料理の名前をたずねると、「ノムセン・ミエン・プラートゥー」という答えが返ってきた。
麺に手で細かくほぐしたプラトゥーを乗せスープをかけ回し、生野菜を乗せて混ぜていただく。
か、辛い!!
タイと長年かかわって来て、少々の辛さでは驚かなくなっている(むしろ、辛くないと物足りなく感じる)自分だが、久しぶりに味わう腰を抜かすくらいの突き抜けた辛さだ。
しかし、滝のように流れ始めた汗を拭きながら食べ進むうちに、だんだんと深い味わいが口の中に広がってくる。
揚げたプラトゥーの香ばしさとちょっとポソポソとした食感、ねっとり、もっちりとした麺、パリッ、シャキッとした生野菜に強烈な辛さのスープが合わさることで、バラバラになりそうな素材がひとつの完成した料理としてのおいしさを生み出しているのだ。
タイ料理やインド料理に共通する特徴だが、一口に「辛い」といっても実はそこには種類があって、その辛味の違いがわかるようになってくると奥深さにハマることになるのだが、このノムセン・ミエン・プラートゥーのスープににも、単に「辛い」と一言では片付けることができない辛さの旨味のようなものが感じられる。
これだけ、エッジの効いた辛さを前面に出しつつ、料理としての完成度を高く保てるというのは、大した腕の持ち主だよ<友人の奥さん
また、おいしいもの食べさせてね(^^)
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