11か月ぶりの自宅は荒れていた
「プロフィール」でも記している通り、自分は2013年からリタイヤメントビザを取得してチェンマイで暮らしていた。
2020年2月末に家庭の都合で2週間のつもりで日本に一時帰国したのだが、すでに拡大し始めていた新型コロナウイルスの影響で用事がはかどらず、もたもたしているうちにタイが鎖国、9月にはビザも失効してしまいチェンマイに戻ることができなくなってしまった。
しかし、その後徐々にタイも入国をオープンにし始めたので12月に新たに日本でビザを取得、その後実際に渡航するための手続きを経て年が変わった2021年1月に再びタイに入国することができた。
チェンマイの家を空けること11か月に及んだが不在中はお友達が定期的に家を見回って掃除などをしてくれていて、自分が戻る前日にもしっかり掃除をしてくれていたおかげで、バンコクでの強制隔離を経て11か月ぶりにチェンマイの自宅に帰着した時も、とりあえず普通にシャワーを浴びて寝ることができた。
ところが翌朝、改めて家の内外を見回してみるとあちらこちらに問題のあることが発覚した。
ゲストルームの雨漏り
普段はクローゼットとしてしか使用していないゲストルームの天井が雨漏りしていた。
自分が戻ったのは乾季だったので天井は乾いてはいたが。
裏には敷地が優に3,000坪はあろうかというバンコクの貴族の別荘と言われているテニスコート付きの家がありそのほとんどは大木が茂る林になっているのだが、その木の一部は自宅の屋根に覆いかぶさるように伸びていて「大きい枝が落ちてきたら屋根に穴があきそうだね」と大家さんと以前話をしていた。
果たして原因がそうなのかはわからないが、次の雨季が始まる前に直しておかないと大変なことになりそうだ。
貯水タンクの傾き
チェンマイ(タイ)の一軒家にはすべて、といってもいいくらい備わっているのが貯水タンクだ。
自分の家にも750リットルのタンクがもともと備えつけられていたが、戻ってみるとこれが大きく傾いていて、今にも倒れそうな感じだった。
家の建物の周囲には幅1mほどに渡ってコンクリートが敷き詰められ、その上にタンクが置いてあるのだが、おそらくその部分がタンクの重みで傾いて沈んだためこのような状態になったのだと思う。
これだけの水の入ったタンクが倒れたら、えらいことになりそうだ。
基礎近くに大きなひび割れ
家の基礎に近い部分の壁には、今回長期不在になる以前から若干のひび割れがあったのだが、今回戻って来て見たらそれがとんでもなく拡大していた。
家そのものが傾いてしまったような感覚はないが、何となく不安になって来るひび割れだ。
日本だったら、地震が来たりしたらあっという間に崩壊してしまうパターンかも。
ガレージの柱の浮き上がり
たぶん、貯水タンクが傾いてしまったのと同じ原因だと思うのだが、ガレージの柱が大きく浮き上がっていた。
いや、柱が浮き上がったというよりはガレージの地面のコンクリートが沈んだというべきなのかもしれないが。
この柱も以前から浮き上がっていて、一度自分でセメントを買って来てすき間を埋めて落ち着いていたのだが、わずか1年足らずの間に大きく広がってしまった。
ガレージの屋根はタイ式の厚い瓦が敷いてあり相当の重量があるはずで、それをこのような柱で支えているので崩落すれば止めてある車などひとたまりもないばかりか、万が一自分が下にいたら簡単に死んでしまうだろう。
今回気づいた不具合の中で、最も恐怖を感じたのがここだった。
なぜか排水溝のふたも粉々に
ほかにも「なぜここが???」と思ったのが、粉々に砕けていた排水溝のふた。
誰かが乗ったくらいではこんな風には壊れないだろうし、それこそ鉄のかたまりでも落とせば別だが、誰かがそんなことをする理由がない。
実は数年前にここから蛇が出たことがあり、自分的には近づかない(見ない)ようにしていたのだが、さすがにこのまま放置もできないので、新しくふたを置き直さなければならない。
大家さんの対応は素早かった
あちらこちらに不具合が見つかりせっかく11か月ぶりにチェンマイに戻って来たのに家の状態が心配でおちおち眠ってもいられない、というのでは本末転倒なので、各個所の写真を撮って、大家さんに「このままではここで暮らせません」と付け加えてLINEを送った。
今住んでいる家の大家さんは娘さんがバンコクの日本企業勤務で大の親日家ということもあって、借りる時には「5年は値上げしないからずっと借りてちょうだい」と言われ、何か問題があって連絡するとたいていすぐに対応してくれるので大変助かっているのだが、今回もLINEを送ると間を置かずに電話があって「明日状態を見に行くので、それでどう対応するか決めます」とのことだった。
そして翌日の朝早く、チェンマイから車で1時間ほど離れた場所に住んでいる大家さんがわざわざ自宅を見に来てくれ「全部直しますから心配しなくていいですよ。まとめて仕事をしてくれる人がいるから、これから電話して来てもらいます」と言う。
そして同じ日の午後に大家さんの手配した親方(?)がピックアップトラックに乗ってやって来た。
子供連れの夫婦だ。
あいにく大家さんは用事があって立ち会えなかったのだが、自分が対応して不具合の個所などをひとつひとつ説明していく。
旦那さんのほうが「ここはこうしよう、ここを直すのには**が必要だ」とか言いつつ時折巻き尺をあてて寸法を測ったりすると、奥さんがそれをメモしていく。
子供は両親の脇にずっとくっついていたが、自分がバンコクで隔離期間中に食べようと思って日本から持って来たお菓子が残っていたのを思い出しひとつあげたら、もう大喜び。
食べ終わった袋を手から離さず、ピョンピョン飛び跳ねていた。
かわいいなあ(^^)
親方はなかなかしっかりしていて、自分で家の外や中をチェックした後で「ここもこのままにしておくとすぐにダメになるからついでに直しておいたほうがいいです」と言ったアドバイスもくれ、すべての仕事が終わると大家さんに電話してこの後の段取りや見積額などについてしばらく話をしていた。
それが終わると「早速明日から工事にとりかかります。全部修繕し終わるのにたぶん1週間くらいかかると思います。明日の朝また来ますから」と言い残して帰って行った。
親方は「家の外を工事している時は、家の戸締りさえしてくれれば外出してても構いませんよ」と言っていたが、そうだとしてもそう長い時間不在にするわけにはいかないので、原則家にいるつもりでその日の夜は近所のミニスーパーでランチ用のインスタント食品などを買い揃えて明日からの工事に備えた。
工事は職人が日ごとに入れ替わり順調に(?)進む
前日に来てチェックなどをしていったご夫婦は、親方というよりはどちらかというと手配師に近いようだ。
朝自宅にやってきて職人と落ち合うと仕事の指示を出して去り、その日の夕方あるいは翌日の朝に仕上がりをチェックする、職人が資材などが足りないなどの連絡を入れるとピックアップトラックにそれを積んで持って来る、などの役割を担っていた。
作業は親方が言った通りちょうど実働7日だったが、途中に祝日が入ったりしたため実日数としては10日くらいかかったと思う。
軒の修繕
工事初日の朝8時過ぎに職人たちがピックアップに乗ってやって来た。
職人たちは車を降りると、家の中に大きな石膏ボードのようなものを運び込んだ。
少しすると親方もやってきて職人たちに指示を出す。
どうやら、初日は自分が気がつかなくて大家さんが家を見に来た時に「ここも直したほうがいいですね」と言っていた、雨水が染みこんで黒く変色していた軒の修繕をするようだ。
軒の部分に取り付けられていた石膏ボードのようなものをはずすと、金属の骨組みが現れる。
持ち込んだ石膏ボードのようなものを軒のサイズに合わせて切ってからはめ込み継ぎ目にテープを貼り、その上からドロッとした白い防水塗料のようなものを塗っていけば完成だ。
あまりにも単純な構造で「これじゃすぐに壊れるよな~」と思ったのだが、逆に言えばこのように簡単に修繕もできるということで、日本のように専門教育(指導)を受けていないアマチュアの職人が作業するタイでは、かえってこの方が都合がいいのかもしれないとも思った。
ゲストルームの雨漏り修繕
この日は、同じ職人さんが家の中に入ってゲストルームの雨漏りの修繕も行った。
その様子を見て初めてわかったのだが、屋外の軒も家の中の天井も基本的には同じ構造なのだ。
雨漏りは屋根の瓦が割れたか壊れたかが原因なので、交換用の瓦をピックアップトラックから降ろして家の敷地内にまずは置いた。
続いてリビングルームの天井の雨漏りで歪んでしまった部分を大型のカッターで四角く切り取って、そこから屋根を見て雨漏りの原因個所を特定する。
雨漏りの原因個所が特定出来たら、職人が瓦を持って屋根に登り交換作業だ。
さすがに自分が屋根に登るわけにはいかないので、どのように瓦を交換したのかはわからないが。
ちなみに、写真で職人がほうきを持っているのは瓦を交換し終わった後で屋根に積もった枯れ枝や枯れ葉を掃除するためだ。
たぶんまたあっという間に裏の家から降って来て元の木阿弥だろうが、工事とは関係なくわざわざきれいにしてくれるという気持ちがうれしい。
屋根の修繕がきちんと終わったことを確認したら、天井の切り取った部分に石膏ボードをはめ込み、軒の時とまったく同じにつなぎ目にテープを貼ってから白い塗料のようなものを塗ってこちらも終了だ。
ただ、これで本当にもう雨漏りしないかどうかは雨季になってみないとわからないぞ。
傾いた貯水タンクの修繕
大きく傾いて、今にも倒れるんじゃないかと心配になるくらいだった貯水タンク。
「これはどうやって直す(水平に戻す)のだろう?」と思っていたのだが、当たり前だがまずはタンクの水を抜くことから始まった。
すぐ隣にあるポンプの枠も固定されている古いコンクリートを壊して取り外せるようにした。
次いで、古いコンクリートの端に沿って幅15cmほど、長さ3~4mほどの鉄の板のようなものを設置した。
その後しばらくすると、家の前に突然大きなコンクリートミキサー車が止まった。
運転手が窓から顔を出すと、家の中にいた職人が外に出た何やら話かけている。
そして、何とコンクリートミキサー車が自宅の中にバックで突っ込んで来たではないか!
自宅の門の幅ギリギリのところを斜めにバックで入って来て、職人の誘導で家の建物との距離わずか30cmほどのところまで近づいて止まった。
さすがにドライバーさんは慣れているのか、プロのハンドルさばきだね。
こんなミキサー車が乗りつけていったいこの後どんなことになるのだろう、と思ったのだが狭い場所での作業となり自分は近づけなくなってしまい、現場を見に行けたのはコンクリートミキサー車が帰ってその後数時間がたった後だった。
すっかりきれいに家の建物の周囲にコンクリートが敷き詰められていた。
家の周囲に敷かれたコンクリートが傾いていて実害が出ていたのはここだけだったのだが、さすがにミキサー車1台分は使いきれなかったのか、他の部分にもコンクリートが流し込まれ斜面のように傾いていたのが直されていた。
しかし、裏の家の敷地から枯れ葉とかが落ちて来てもお構いなし。
チェンマイ(タイ)だと、コンクリートの上に犬の足跡とかがそのまま残ってるのをよく見かけるけど、養生とかしないからなあ。
貯水タンクの水を全部抜いてしまったのでしばらく水を出せないのだろうか、もしそうならシャワーも浴びれないし不便だなあ、と思っていたら、職人が帰り際に「今から3~4時間したら水を半分だけ入れていいよ。そして、翌朝になったら満タンにしてもだいじょうぶだから」と言った。
実際にその通りにしてみたが、タンクが沈んだり再び傾いたりすることもなかった。
コンクリートって意外に早く固まるものなんだ、ということを今回の工事で初めて知ったのだった。
壁のひび割れの修復
自分が家の基礎の一部分だと思っていた大きくひび割れた壁は、基礎でも何でもなかった。
職人が説明してくれたのだが、この家は地面から60~70cmくらいのところまでの高さのある柱とそこに渡されたコンクリートの梁のようなもので支えられていて、日本のように壁の下部全体に基礎が回されているのではないそうだ。
なのでその柱と柱の間の部分は単にすき間をふさいでいるだけで、ひびが入ってもまったく問題はないらしい。
その証拠に、ひび割れた部分をとがったハンマーで叩くとあっという間に周囲もガラガラと崩れていった。
その後、セメントを準備してすき間にコテで埋めていった。
この部分の修復には意外に時間がかかった。
セメントを埋めた翌々日に1度目の色塗り、さらに2日置いて2度目の色塗りとなったからだ。
ガレージの脇で普段は自動車が止まっていて見えるところではないので別に構わないのだが、何か色の塗り方がぞんざいだ。
日本だったら、たぶん周囲の同じ色の部分も全部塗り直して目立たないようにするのではないだろうか。
まあ、こんな色違いになっても住む上で別に困るわけではないのだが。
ガレージの柱の修復
浮き上がった(というか地面が沈んだ)ためにすき間の開いたガレージの柱の修復は、上記の基礎の壁と同時に行われた。
たぶん、使うのが同じセメントだからだろう。
まずは、自分がいい加減に埋めたセメントを全部はがす。
そして、すき間の部分にセメントをコテで埋め込んでいったら終了だ。
う~ん、見た目にはよくなったけどこれで本当にいいのか!?
ここの修復をしたのは顔にタナカ(白茶っぽい日焼け止め兼化粧品)を塗った女性だった。
ということは、たぶんミャンマーからの出稼ぎ(見た目にはタイヤイ=シャン族)なのだろう。
女性は柱の修復が終わるとすぐそばの、やはり地面が沈み込んだことでひどくひび割れていた下水槽(たぶん)の端の部分に同じようにセメントを塗り始めた。
これで周囲を含めひび割れのひどい部分はすべて表面上はきれいになった。
個人的には、またしばらくしたら同じような状態に戻ってしまうのでないかと想像しているのだが。
その他のコンクリートのひび割れの修復
家の建物の周囲の地面にめぐらされていたコンクリートは、他にも何か所もひび割れが起きていた。
自分は、ひび割れからせいぜい雑草が生えてくるくらいで大きな問題とは思っていなかったのだが、大家さんがそこも直すように指示してくれたようだ。
が、思ったよりもずっと手間のかかる仕事で見ていて職人が気の毒になってしまった。
とにかく、ひび割れの周囲のコンクリートが硬くてぜんぜん壊れないのだ。
最初は大きなノミのようなものとハンマーを使って壊そうとしていたがぜんぜんらちが明かないので、職人がピックアップトラックに乗って自宅(?)に戻り、日本だと道路工事で見るような大きな電動破砕機(正式な名前がわからない)を持って来て「ドドドドッ」とものすごい音を立てながら壊すことになってしまった。
ようやく、ひび割れを広げてコンクリートを流し込むことができる溝ができた。
もうコンクリートはないので流し入れたのは普通のセメントだったが、これで何とかひび割れはなくなりかっこうだけはついた。
最後に排水溝のふたも新しくなった
「最後に」と書いたが、実際にはいつ変わったのかはわからない。
粉々に壊れていた排水溝のふたもいつの間にかあたらしいものがはめ込まれていた。
これで、中に落ち葉が入って詰まるようなことはないだろう。
タイらしい工事だったがよくできた部分も
こうして1週間以上にわたる工事は無事に(?)終わったが、はしごやセメントの袋などはその後も2~3日自宅の庭に放置されたままだった。
職人たちの電話番号なども知らないのでどうしようかと思っていたのだが、朝早くに突然ピックアップトラックがやってきて挨拶もそこそこにこれらの物を運び出していった。
たまたま家にいたからいいようなものの、不在だったらどうしたのだろうか。
今までチェンマイでアパートなどの集合住宅、ホンテウ(タイ式タウンハウス)、そして一軒家といろいろな場所で暮らしてきた中で小さな部分部分の修繕・修復工事はしたことはあったが、今回のような大掛かりなものは初めてだった。
工事に立ち会って思ったのは、チェンマイ(タイ)の家の構造は全体的に極めてシンプルだということ。
台風や地震など自然災害の多い日本だったら、こんな構造の家はあっという間に崩壊してしまうのではないだろうか。
逆に言えばシンプルだからこそ壊れた時の修復も容易で、日本のように専門知識や技術を習得していない職人でも簡単に作業ができるようになっている。
後は、修繕と言っても表向き(見た目)を取り繕うだけものものが多くて根本的な問題の解決になっておらず、素人の自分が見ても「これ、またしばらくしたら元の状態に戻っちゃうんじゃない?」と思うような個所も多かった。
ただ、これは費用を負担した大家さんの懐具合にも関係があるのかもしれず、金に糸目をつけなければもっと本格的な修繕工事になったのかもしれないが。
自分はこの先いつまでチェンマイに住むのかもわからないし、もしまたこの家で今回のような不具合が見つかったらたぶん新しい住処を探すような気もする。
なので、このような経験をチェンマイ(タイ)ですることはもう一生ないかもしれないが、ある意味タイ人の住宅工事に対する考え方や習慣などを垣間見ることができて、とてもおもしろかった。
なんだかんだ言っても、やっぱり自分はチェンマイ(タイ)とコンムアン(คนเมือง=都人=チェンマイ人)が好きだなあ。
タイ語に不安がある方は、抜群の翻訳精度のこちらをおすすめします
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